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人材育成で大切なことを押さえた9ステップの育成計画

                   
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公開日:2025.01.21更新日:2025年1月20日

新規事業と人材育成は、一見すると無関係な分野に見えるが、「企業が新しい経営資源を獲得する」という目的に基づく視座に立つと、近しい要素を持っている。

近年は特に、人材を資源(リソース)ではなく『資本』として捉える「人的資本経営」という概念が注目され始めている。新規事業を企画する視点で世の中を見ると、すでに様々な人的資本経営を実現するための人材育成サービスや事業が登場し始めている。

また、新規事業開発そのものに対して、事業の種を見つけ、企画を整え、社内調整しながら、新しい業務を作るという一連の業務が人材育成のプログラムになると期待して、「新規事業を作りなさい」という指示を出す事例はよく耳にする。

そして、新規事業の開発ノウハウは、実は人材育成の分野にも応用可能だ。企業の新規事業開発を専門とする当社が、新規事業開発のノウハウを用いて、企業の経営戦略や企業変革としての人材育成に携わった実績もある。

つまり、新規事業の視点から見た「人材育成」は、企業が持つ「お金を稼ぐ仕組み」をブラッシュアップして、生産性や競争力を向上させるという点で似ているテーマだ。

今回の記事では、新規事業を専門とする当独自の視点を交えて、人材育成において大切なことを解説して、9ステップの育成計画の進め方を解説する。

人材育成とは?近年の企業における人材育成の役割

人材育成とは、端的に言えば、「組織全体の生産性や競争力を向上させるために、社員一人ひとりの能力を向上させること」だと言える。

つまり、社員のレベルアップが会社全体のレベルアップにつながるとイメージしてもらえれば良い。

人材開発との違いは、視点の違い

ここで、人材育成とよく似た言葉に「人材開発」という言葉がある。企業によっては「人財開発」と表現する企業もある。

この違いは、視点の違いにある。

人材育成とは、組織全体が成長を見据えて実施する取り組み

まず人材育成は、組織が対象者を職種や役職・年齢で分けて、それぞれの対象に応じて従業員個々のスキルや知識、業務能力を向上させ、企業に貢献できる人材の育成を目的としている。

新入社員を対象とした集合研修が一例だ。新入社員の研修や中堅社員のスキルアップ、管理職向けのリーダーシップ研修など、具体的な教育プログラムが中心となる。企業文化の醸成やタレントマネジメントといった広範な取り組みも含まれる。

人材開発とは、社員個人が自身の能力開発に重きを置く施策

一方、人材開発では、社員自らが目標を設定し、スキルや能力の向上を目指す。自分自身の成長やキャリアプランを実現するため、必要な学びを自分自身で選ぶという点で、自発性が重視される。

人材育成が長期的な視野で組織全体の成長を見据えた取り組みであるのに対して、人材開発は社員個人の能力開発に重きを置く施策という点で異なる。

人材育成の目的

人材育成の目的は、組織の目標達成に必要なスキルや知識を社員に習得させ、組織全体の競争力を高めることである。各企業の業種やビジョン、戦略により、その内容や方法は多様であり、画一的なものではない。業務知識やノウハウの習得に必要な時間についても、各企業や業種で異なる。

しかし、共通して言えるのは、社員一人ひとりの能力向上が組織全体の生産性や競争力の向上につながるという点である。そのため、効果的な人材育成は、企業の持続的成長や市場での優位性確保に不可欠な要素である。

近年の企業における重要性:環境変化に対応できる人材

近年、グローバル化や技術の進化が急速に進み、市場環境はかつてないほどのスピードで変化している。このような状況下で、企業が持続的な競争力を維持するためには、変化に柔軟に対応できる人材の育成が必要不可欠である。特に、デジタル人材やイノベーション創出に貢献できる人材への需要が高まっている。

また、先述した通り『人的資本経営』という概念が注目されるようになった。これは、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉える企業が増加しているという意味だ。従業員のスキルや知識の向上が、組織全体の成長と競争力向上に直結するという考え方が浸透している。そのため人材育成は、企業の長期的な戦略の一部として位置付けられるようになった。

企業がこれらの課題に対応するには、画一的な育成方法では不十分である。各企業の目標や業種に応じた柔軟な育成プログラムを設計し、従業員が必要なスキルや知識を段階的に習得できる仕組みを整えることが重要である。こうした取り組みを通じて、企業は持続可能な成長を実現できる。人材育成の重要性は、現代の企業経営においてますます高まっている。

人材育成の現状

人材育成がm企業の成長や発展にとって重要な取り組みであることは間違いない。

しかしながら、実務としての人材育成は、経営層、人材育成の担当者や中堅社員、人材育成の対象となる若手社員にとって、以下のような意見があるのが実情ではないだろうか。

経営層

  • 社員がなかなか成長しない
  • 人材育成の効果を実感できない
  • 人材育成の費用対効果を感じられない

人材育成の担当者や実務を担う中堅社員

  • どのように育成プランを立てればよいかわからない
  • 「人材育成が大事」と言われても、実務経験で成長してきた(OJT= on the job training)ため、具体的な立案方法がわからない
  • スキルの可視化をどう進めたらよいかわからない

人材育成対象の若手社員

  • OJTがメインで、成長している実感が湧かない
  • 人材育成をしっかり行ってくれる企業で働きたい

このように、人材育成という課題においては、企業価値を高めたい経営者、人材育成の担当者や中堅社員、人材育成の対象となる若手社員で、考え方やスタンスに違いが生じる傾向がある。

さらに近年、若手社員が漠然と「ゆるい職場」に対して不安を感じたり、「ゆるい職場」から退職したいと考えるケースが一定数あると指摘されている。リクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗氏は、『ゆるい職場—若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ781)やPRESIDENT ONLINEの記事でこの問題について詳述している。

参考:PRESIDENT ONLINE会社は好きだけど、このままここにいるとヤバい…居心地のいい「ゆるい職場」からどんどん若者が消える理由

昨今、「ゆるい職場」というテーマが注目される中、企業の人材育成は単に成長や発展にとって重要な課題であるだけでなく、若手社員の定着や離職防止という観点でも、ますます重要なテーマとなっている。

人材育成で大切な6つのこと

前提の説明が長くなったが、本記事のタイトルにもある、「人材育成で大切なこと」をまとめると以下の6つに集約される。

1. 企業のビジョンや戦略に基づいた育成方針の明確化

人材育成は、企業のビジョンや経営戦略と切り離して語ることはできない。

まず、育成の目的とゴールを明確に定義し、企業が目指すべき人材像を具体化することが求められる。この過程では、「企業がどのようなスキルや能力を持つ人材を必要としているのか」を洗い出し、それに基づいた方針を設定することが重要である。これにより、育成計画全体が一貫性を持ち、実行可能な形となる。

例えば、「経営戦略としてDXを推進する当社にとって、DX人材が必要だ」となれば、自ずと必要なスキルや能力が割り出すことができるし、ロジカルシンキングやITリテラシー・コラボレーションスキルなどを育成する方針が計画として明確化される。

2. 階層別のアプローチと個別化

新入社員、中堅社員、管理職といった従業員の階層ごとに必要なスキルや役割が異なるため、それぞれに応じた育成計画を設計する必要がある。

新入社員には、企業文化や基本的なビジネスマナー、業務知識の習得が求められる。

中堅社員には、リーダーシップや問題解決能力の向上が必要であると同時に、業務のマンネリ化を防ぐため、新たな挑戦の機会を提供することが重要である。

管理職には、経営視点や組織全体を俯瞰する能力、さらには広範なコミュニケーションスキルを育成する必要がある。

3. 主体性と自主性の促進

組織が育成方針と育成計画を定めたうえで、従業員一人ひとりが自ら考え、行動し、責任を持つ「主体性」を育むことが重要である。また、職務に対して積極的に取り組む「自主性」を促進することも欠かせない。

これを実現するには、挑戦できる環境を整備し、失敗を学びの機会と捉えられる職場文化を育むことが必要である。特に、上司や管理職がビジョンを共有し、目標達成に向けた方向性を示すことが重要だ。

「心理的安全性」というキーワードがあるが、まさしく「自分は安全な環境で、任されている」という信用がなければ、人材育成だとしても対象者が何らかのリスクを感じるような取り組みを行わせることは難しい。

4. 実践的で効果的な育成方法の導入

OJT(On-the-Job Training)やeラーニング、ジョブローテーション、メンター制度といった実践的な手法を活用することで、学びと業務を結びつけ、効率的なスキルアップを実現できる。

どの方法が望ましいかは、後述する「評価とフィードバックの仕組み」の内容と連結している。

例えば、業務の中で直接スキルを磨くOJTは、多くの企業で活用されており、業務を通じて徐々にスキルの幅を広げることが効果的とされる。

5. 評価とフィードバックの仕組み

人材育成の成果を測定し、従業員に具体的なフィードバックを提供することが、成長を実感させる重要な要素である。言い換えれば、評価とフィードバックなく、一方的に何らかの取り組みを続けさせるということは避けるべきだ。

例えば、スキルマップを活用して従業員の現在の能力を可視化し、その進捗を定量的に評価することは有効な方法だ。また、成長を評価するだけでなく、改善の方向性を示すフィードバックを適切に行うことで、従業員のモチベーション向上にも繋がる。

起こりがちなこととして、新入社員に対して、「若い人材だからこそ、新規事業を担当させて、既存業務では持ち得ない視座を持ってほしい」と期待して人材育成と称した新規事業開発にいきなり抜擢するケースがある。確かに、新規事業開発によって、既存事業では培えないノウハウや知見が得られることは間違いない。しかし、そのためには組織の中に、新規事業の取り組みを評価してフィードバックできる仕組みがなければならない。

6. 学びを支える環境と文化の整備

従業員が安心して学びを実践できる職場環境の整備は、人材育成を成功させる上で欠かせない。先述した心理的安全性を確保し、失敗を恐れずに挑戦できる職場文化を醸成することが必要である。

具体的には、定期的な1on1ミーティングやフォローアップセッションを実施し、従業員が疑問や悩みを相談しやすい環境を構築することが効果的だ。

人材育成で大切なことを抑えた9ステップの育成計画

ここからは、人材育成で大切な6つポイントを踏まえて、9ステップの実践的な育成計画を策定する。

この育成計画の進め方を元にして、実務上の人材育成に役立ててほしい。

ステップ1:経営戦略に沿った育成方針の確立

まず、企業が成長を遂げるためには、経営戦略や理念に基づき、組織全体が目指すべき人材像を定義し、育成方針を明確にすることが重要である。育成方針を確立することで、企業が求める人材像を明確化し、その人材像にもとづきどのように従業員を育成するかを定めることができる。

ステップ2:人材育成の目的と目標の明確化

次に人材育成を効果的に進めるためには、人材育成の目的と具体的な目標を明確に設定することが必要である。

目的の設定

まず人材育成の目的を定めることが必要である。「目的」を明確化することで、企業のビジョンや経営戦略に即した内容にすることができる。

たとえば、以下のような目的設定が想定される。

  • 業務に必要なスキルや専門知識の向上
  • ビジネスマインドの構築
  • チームビルディングの強化
  • 会社に対する帰属意識の向上

なお人材育成の目的が不明確な場合、場当たり的な人材育成になる恐れがある。場当たり的な研修事例として下記のような事例が挙げられる。

場当たり的な研修事例1:「とりあえず何でも学ぶ研修」

目的が設定されておらず、「従業員全体のスキルアップを目指す」という漠然とした方針で、業務に直接関係のないテーマを盛り込んだ研修は、場当たり的な研修事例と言える。

例えば、営業チームに対してマーケティングや経理の基本を広く浅く教える内容を詰め込むが、それらをどのように業務に活用するのか説明がないため、従業員は意義を感じられず、学んだ内容も実務で使われないことが多い。

場当たり的な研修事例2: 課題に即していない「形式的なマナー研修」

例えば、既に基本的なビジネスマナーを習得している中堅社員に対して、新入社員向けのマナー研修を再度実施したり、具体的な改善ポイントや職場での課題に触れることなく、「とりあえず研修をやった感」を出すだけの内容は、参加者が時間の浪費だと感じるのは間違いない。

こうした研修は従業員にとって意義が感じられず、学んだ内容が業務に活かされない。この状況を避けるために、人材育成の目的を設定することで、従業員にとって価値のある研修にすることができる。

目標の具体化

目的を実現するためには、達成すべき具体的な目標を定める必要がある。この目標は、従業員個人と組織の双方が客観的に評価できるものが望ましい。具体的には、目標達成の期間や期日、達成するべきゴールを明示する必要がる。例えば以下のような目標設定が適切である。

  • 6か月以内に特定の資格を取得する。
  • 次年度までにプロジェクト管理スキルを習得し、実務で活用できるレベルに到達する。
  • 1年以内に部門横断的なコミュニケーション力を高め、チームの生産性向上に貢献する。

目標が具体的であれば、進捗状況を評価しやすく、従業員のモチベーション向上にもつながる。

ステップ3:適切な育成スキームの選択

人材育成を成功させるためには「適切な育成スキーム」の選択が必要不可欠である。以下は職位に応じた育成スキーム例である。

  • 新入社員~若手社員:
    • OJT・OFF-JT
    • メンター制度
    • eラーニング
  • 中堅社員:
    • OJT
    • メンター制度
    • eラーニング
    • ジョブローテーション
  • マネージャー:
    • eラーニング
    • 外部研修
    • 人事評価研修

例えば、新入社員には業務の基本スキルや会社文化の理解を促すOJTやメンター制度が有効であるのに対して、中堅社員には職場のリーダーとしての役割が求められるためジョブローテーション制度や経験豊富なメンターから学ぶ制度が効果的である。またマネージャー層には、経営視点を養う外部研修や組織運営に必要な人事評価スキルの強化が求められる。

これらのスキームを組み合わせることで、職位ごとに最適な育成環境を構築し、組織全体の成長を促進することができる。

ステップ4:環境と制度の整備

人材育成をスムーズに行うためには、従業員が安心して学びを実践し挑戦できる職場環境づくりとそれを支える制度作りの両方が必要である。どれだけ効果的なトレーニングや教育プログラムを提供しても、日常の業務環境で学びを実践する場がなければ、研修の意味がなくなってしまう。

従業員が安心して学びを実践できる職場環境作りに欠かせないのが、心理的安全性の確保である。従業員が失敗を恐れずに実践できる文化を育むことで、スキルアップや新しいアイデアの発展が促すことができる。

また、人材育成に関わる制度設計も重要だ。具体的には、OJT制度、研修制度、ジョブローテーション制度、人事評価制度、目標管理制度、メンター制度などの整備が挙げられる。研修制度を整備し、積極的に挑戦できる環境を構築することで、従業員は自身の成長を実感し、仕事のモチベーションを高めることができる。若手社員の離職理由の一つとして挙げられる「成長が実感できない」という悩みも払拭できる。

ステップ5: スキルの可視化と評価制度の導入

効果的な人材育成を実現するためには、スキルの可視化と評価制度の導入も必要不可欠である。育成対象者のスキルを可視化することで、現時点の能力や不足しているスキルが明確となり、成長の進捗を定量的に把握することができる。このプロセスを通じて、育成計画の方向性が具体化し、効率的かつ戦略的な人材育成が可能となる。

特に、スキルマップの作成は、スキル可視化の中心的な手法として有用である。スキルマップを活用することで、従業員の現在のスキルセットを体系的に整理し、組織全体のスキル分布や不足している領域を明確化できる。例えば、従業員の専門性や業務内容に基づき、必要なスキルをリスト化し、それぞれのレベルを可視化することで、育成の優先順位を設定することが可能となる。例えばエクセルや専用のデジタルツールを活用し、スキルレベルを視覚的に表示することで、育成の優先順位や具体的な目標が明確になる。

またスキルマップは、評価制度とも密接に関連している。可視化されたスキル情報を基に、従業員一人ひとりのスキルアップを適切に評価し、成長に応じたフィードバックを提供することで、モチベーションを向上させることができる。このようにスキルマップの作成と評価制度の統合は、個々の成長を促進し、組織全体の競争力向上に寄与する。

ステップ6:育成担当者のスキル向上

人材育成の質を確保するためには、育成担当者自身のスキル向上が不可欠である。育成担当者が効果的に指導を行うためには、教育技術やコミュニケーション能力、個々の従業員に適した指導方法を備えていることが求められる。これらのスキルを高めることにより、育成の質を向上させ、従業員の成長を最大限に引き出すことが可能となる。

具体的には、育成担当者に対して専門的な研修を実施することが効果的である。例えば、コーチングスキルやフィードバックの技術を学ぶ研修、最新の教育手法に関する知識を提供するプログラムなどが挙げられる。また、外部の専門家やコンサルタントを招き、具体的な事例を基にしたワークショップを実施することで、実践的なスキルを養うことができる。

さらに、担当者が学んだ内容を現場で継続的に活用できるよう、フォローアップの仕組みを整えることも重要である。育成担当者のスキル向上は、組織全体の人材育成の質を高める基盤となり、長期的な成長に寄与するものである。

育成担当者のスキル向上については、後ほど更に詳しく解説する。

ステップ7:従業員の主体性と自主性の促進

従業員の主体性と自主性を促進することは、組織全体の成長と活力を高めるために欠かせない要素である。ただし、「主体性」と「自主性」には明確な違いがあり、それぞれを理解した上で取り組むことが重要である。

主体性:

主体性とは、自らの意志と判断に基づき、自分で責任を持って行動する態度や性質を指す。中堅社員以上に特に求められる資質である。主体性のある従業員は、上司からの指示や予め決められた役割がなくても、業務改善のアイデアを自ら提案したり、新しいプロジェクトを立ち上げたりすることができる。主体性を育むためには組織のビジョンを理解して、失敗を学びの機会として捉えられる環境づくりが必要になる。

自主性:

自主性は、あらかじめ決められた職務、役割に対して率先して行う態度や性質を指す。新入社員は上司の指示に従って仕事をするものの、仕事を覚えた後は自発的に仕事を遂行することが求められる。自主性を育むには、企業のビジョンや目標を伝えて自分の役割を自覚させることや小さな成功体験の経験、タスクについて裁量を与えて自分で考える習慣を定着させることが必要である。

主体性や自主性の涵養には、マネージャーの役割が重要である。個別の面談や定期的なフィードバックを通じて、従業員が自身の目標を明確化し、成長の方向性を見出せるよう支援する。マネージャーがポジティブなフィードバックを行うことで、部下が意欲的に行動できる土壌を作ることも欠かせない。

ステップ8:モチベーションの管理

従業員のモチベーションの管理は、人材育成を成功させるための重要な要素である。モチベーションが低下すると、学習の効果が薄れ、成長につながる活動を行うことが難しくなる。

特に内的モチベーションと外的モチベーションの両方に目を向けたアプローチが効果的である。

内的モチベーション:

内的モチベーションとは、外的な報酬や圧力ではなく、活動自体に対する興味や楽しさ、やりがいから生じるモチベーションのことである。内的モチベーションに基づく行動事例として、「パズルを解くのが楽しいからパズルをする」、「楽しいと感じて仕事をする」といったことが挙げられる。内的モチベーションを引き出すためには、従業員自らが目標設定を行い、自分自身でタスクの計画や実行を行う環境づくりや、自身の努力や成果を確認できるフィードバックが必要である。また、個人のスキルやキャリア目標に合った育成計画を作成することで、学びの意義を実感させ、主体的な行動を促すことができる。

外的モチベーション:

外的モチベーションとは、報酬や評価、昇進など外部から与えられる要因によるものである。内的モチベーションに基づく行動事例として、「お小遣いを稼ぐために仕事をする」、「高収入を得るために仕事をする」といったことが挙げられる。外的モチベーションを引き出すためには、明確で達成可能な目標を設定し、進捗を適切に評価する仕組みを整えることが必要である。努力や成果を公正に評価し、それに見合った報酬や認識を提供することで、従業員の意欲をさらに高めることができる。

ステップ9:中長期的な視点での育成と振り返り

人材育成を効果的に進めるためには、中長期的な視点で進捗を確認し、育成施策の効果測定を適切に実施することが不可欠である。短期的な人材育成では、知識の定着が見られても行動変容に結びつかない場合がある。そのため、期間や目的、目標を明確に定めた中長期的な育成計画の立案と、進捗を定期的に測定する仕組みが必要となる。これにより、施策の効果を継続的に評価し、必要に応じて改善を行うことが可能となる。

効果測定においては、具体的な指標を設定し、それに基づいて目標達成状況を正確に把握・分析することが重要である。例えば、スキルマップやパフォーマンスレビューを活用することで、従業員一人ひとりの成長状況を可視化し、育成の進捗を詳細に確認できる。また、育成施策が組織全体の成果にどのような影響を与えているかを評価することで、施策の有効性を客観的に検証し、次の施策に反映させることができる。

さらに、継続的なフィードバックは従業員の成長を支える重要な要素である。従業員が習得した知識を実務に応用し、行動変容を達成するまで、適切なタイミングでフィードバックを提供し続けることが求められる。このような取り組みを積み重ねることで、人材育成の質を向上させ、組織全体の持続的な成長を実現することが可能である。

階層別のポイント

人材育成では、新入社員、中堅社員、管理職のように階層別で行うべきポイントが異なるため、それぞれの階層に応じた人材育成プランが必要である。それぞれの階層に応じた人材育成のポイントは以下の通りである。

新入社員に向けた人材育成のポイント

新入社員の人材育成で重要なポイントは、迅速に会社の業務や社風に適応し、実務を遂行できるようにすることである。具体的には、会社の経営理念やビジョン、ミッションを理解し、自身の役割を明確にすることに加えて、ビジネスマナーや業界知識、業務スキルを習得することが求められる。これらを基盤とすることで、新入社員は業務を効率的に遂行し、組織の一員としての役割を果たせるようになる。

これらを実現するためには、段階的かつ体系的な育成プログラムの設計が必要である。集合研修によるビジネスマナーや経営理念、業界知識の学習と、OJTによる業務のスキルや知識、ノウハウの習得の組み合わせが想定される。座学×OJTの組み合わせが重要だ。

また多くの新入社員は、慣れない環境の中で新しい業務にチャレンジするため、プレッシャーやストレスを抱えている。そのため、定期的な1on1ミーティングやフィードバックセッション、メンター制度の導入し、新入社員のフォローアップが必要である。これにより、新入社員が業務上の疑問や職場での悩みを気軽に相談できる環境を整備することが可能となる。このような支援体制を構築することで、新入社員の早期戦力化を図り、組織全体の成長を促進することが期待できる。

中堅社員に向けた人材育成のポイント

中堅社員は、現場で培った経験を活かしながら、新たな責任を果たすことが求められる組織の中核的な存在である。そのため、この段階での人材育成では、リーダーシップスキルと問題解決能力の向上が重要になる。それと同時に業務に慣れることで、マンネリ化によるモチベーションや生産性の低下を招くリスクがあり、マンネリ化対策も重要な課題である。

まずリーダーシップスキルの育成は、中堅社員がチームを率い、目標達成を推進するために必要不可欠である。具体的には、信頼関係の構築や多様な意見を調整する力、柔軟な対応力を養うことが求められる。これらのスキルは、リーダーシップ研修や実務での経験を通じて高めることができる。

同時に問題解決能力の向上も重要だ。中堅社員のステージでは、業務遂行能力だけではなく、論理的な分析力や迅速な意思決定能力、新しい解決策を創出する力が要求される。OJTやロジカルシンキング研修を組み合わせることで、スキル習得を効果的に促進できる。特に中堅社員の段階では職務の幅を広げ、専門性を高める必要があり、「重点的、計画的」に育成するOJTが求められる。

一方で、業務に慣れることによるマンネリ化は、中堅社員のモチベーションを低下させ、生産性の低下を招く恐れがある。この課題に対応するには、キャリアの次の段階を見据えた育成が必要である。新たな役割を与えたり、ローテーションを実施することで、挑戦する機会を提供し、業務への新鮮さを保つことが重要である。また、キャリアデザイン研修やメンター制度を活用して、自身の成長を意識させる機会を作ることも有効である。

管理職に向けた人材育成のポイント

管理職には、企業理念や経営方針、ビジョンを深く理解し、目標達成に向けて社員やチーム全体を効果的にマネジメントする役割が求められる。具体的には、経営視座力、コミュニケーション能力、人材育成能力、問題解決能力、決断力、そして担当部門の専門性や経験など、幅広い能力を備えることが重要である。そのため、全体を俯瞰し、経営方針や戦略目標を自らの言葉で解釈し、実行可能な行動計画に落とし込むための育成施策が必要だ。

まず、管理職の人材育成では、組織全体を俯瞰できる視野と経営的な視点(経営視座力)を養うことが不可欠である。これを実現するためには、以下のようなテーマに基づく教育が必要となる。

  • 競合他社の動向を把握する力
  • 業界の最新トレンドへの理解
  • 組織体制の適切な評価
  • 人材配置戦略の策定能力

これらを学ぶためには、オンラインコンテンツやMBAプログラム、専門スキルに応じた外部講師による研修など、多様な学びの機会を提供することが効果的である。

また、コミュニケーション能力の向上も重要な育成課題である。管理職には、社内外での調整役として、「上下左右+社外」の広範なコミュニケーションが要求される。具体的には、上司や役員との意思疎通、直属の部下や中堅社員の指導、他部署との連携、さらには外部関係者との交渉や調整が挙げられる。これらを支えるため、部下のモチベーション管理や利害調整力を磨く研修やコーチングサービスの活用が有効である。

管理職の育成は、短期的な成果を超えて、組織の持続的な成長を見据えた取り組みでなければならない。経営視座力やコミュニケーション能力、リーダーシップなど幅広いスキルを習得することで、管理職は組織の未来を担うリーダーとして活躍することが期待される。

人材育成計画の人材育成担当者に求められるスキル

「ステップ6」において、育成担当者のスキル向上というステップを設けている。

育成担当者は、企業の育成方針を実践し、従業員の成長を支援する重要な役割を担う。そのため、育成担当者自身のスキル向上は、企業全体の成長に直結する重要な要素だ。

特に向上が求められるスキルは、以下の3つだ。

  • コミュニケーション能力
  • モチベーション管理能力
  • ロジカルシンキング

コミュニケーション能力

コミュニケーション能力は、育成の場で欠かせないスキルである。知識を一方的に伝達するだけでなく、参加者の理解度や関心を引き出し、双方向の対話を通じて学びを深めることが重要である。また、参加者が意見を安心して交換できる環境を整えることで心理的安全性を確保し、学習効果を高めることができる。信頼関係を築き、学びやすい環境を提供する力は、育成担当者に必須の能力である。

モチベーション管理能力

モチベーション管理能力もまた重要である。従業員は育成プロセスで困難に直面することが多く、その意欲を維持するための支援が必要となる。目標や達成感を明確に示すことで成長意欲を高めるとともに、適切なフィードバックによって努力や進捗を認めることが有効である。このような支援を通じて、従業員が主体的に学習に取り組む環境を整えることができる。

ロジカルシンキング

さらに、ロジカルシンキングは育成担当者に求められる重要なスキルである。育成プログラムの設計から実施、評価に至るまで、従業員のスキルや課題を論理的に分析し、育成目標を具体的かつ実現可能な形で設定する能力が求められる。段階的な学習プロセスを構築することで学びの定着を促進し、参加者の疑問に論理的に回答することで信頼を得ることができる。ロジカルシンキングは、複雑な課題を簡潔に整理し、具体的な行動指針を示す力として活用される。

育成担当者のスキル醸成方法

育成担当者のスキル向上は、企業の人材育成方針を実現し、従業員の成長を促進するために不可欠である。これらのスキルを高めることで、育成担当者が効果的にその役割を果たし、組織全体の成長を支える存在となることが期待される。

育成担当者のスキルを向上させるためには、体系的かつ実践的な施策を組み合わせることが重要だ。育成担当者は、企業の育成方針を現場で実行する要として、教育技術やコミュニケーション能力、モチベーション管理能力など幅広いスキルを備える必要がある。そのため、スキル醸成の方法には計画的な取り組みが求められる。

研修プログラムの受講

まず、研修プログラムの受講は、基礎的な知識とスキルを身につけるための有効な手段である。特に、オンライン研修やワークショップ形式のプログラムは、多様なケーススタディを通じて実践的な能力を養うことができる。また、コーチングやメンターシップの専門研修を受講することで、部下や参加者の成長を支援するスキルをさらに高めることが可能である。

他社のベストプラクティスの研究

他社のベストプラクティスの研究も有効である。業界の先進事例や成功した育成施策を分析し、自社に応用することで、育成の質を向上させることができる。外部セミナーや人材育成のフォーラムに参加し、他企業の担当者と意見交換を行うことで、新たな視点やアイデアを得る機会を広げることが重要である。

コーチング経験の積上

さらに、コーチングの経験を積むことも効果的である。実際にコーチングを行う中で、育成担当者は相手の状況を理解し、適切なアドバイスを提供するスキルを磨くことができる。部下や同僚との1on1セッションや定期的なフィードバックの実践は、育成担当者自身の成長にも寄与する。

育成担当者のスキル醸成は、企業の成長にも貢献する

これらの施策を組み合わせて実施することで、育成担当者はより高度なスキルを習得し、企業の人材育成方針を効果的に実現する役割を果たすことが期待される。計画的かつ実践的なスキル醸成は、企業全体の成長にも大きく貢献するものである。

人材育成で有用なフレームワーク

これまでは、人材育成計画を成功させるために必要な各要素について解説した。以降は、それらの要素を効果的に実現するための具体的なフレームワークを紹介する。

人材育成におけるフレームワークは、計画の方向性を明確にし、実施や評価を体系的に行うための指針となる。

今回紹介するフレームワークは以下の5つだ。

  1. 「カークパトリックモデル」
  2. 「HPI(Human Performance Improvement)」
  3. 「SMARTの法則」
  4. 「経験学習モデル」
  5. 「思考の6段階モデル」

それぞれのフレームワークは、研修効果の評価、目標設定、学びの深化など、育成プロセスの様々な場面で活用される実践的なツールである。

これらを適切に組み合わせて活用することで、より質の高い人材育成を実現することが可能となる。本章では、その特長と具体的な活用方法について詳しく解説する。

カークパトリックモデル

カークパトリックモデルは、研修や教育プログラムの効果を評価するためのフレームワークである。ドナルド・カークパトリック博士が1959年に提唱し、現在でも世界的に広く採用されている。カークパトリックモデルは、研修成果を「反応」、「学習」、「行動」、「成果」の4つのレベルで評価している。

レベル1:「反応」

レベル1は「反応」であり、参加者が研修をどのように感じたかを測定する。研修内容や講師の質、学習環境への満足度などに焦点を当てる。

レベル2:「学習」

レベル2は「学習」では、研修を通じて参加者がどの程度知識やスキルを習得したかを評価する。テストや実技試験などが主な手法である。例えば、レベル1の「反応」で満足度が高かったとしても、レベル2で知識やスキルが身についていないことが明らかになった場合、その研修は「満足度が高く」ても、「受講生にとって学びが少ない」という評価になる。

レベル3「行動」

レベル3は「行動」であり、研修後に参加者の行動が職場でどのように変化したかを測定する。これは、実務での研修内容の適用度を示す重要な指標である。行動変容につながっていない場合、研修を行った価値は低いという評価になる。

レベル4「成果」

レベル4の「成果」は、研修が組織に与えたビジネス上の影響で評価する。例えば、生産性の向上やコスト削減などが含まれる。レベル4の重要な指標の一つとして、ROI(費用対効果)が挙げられる。

カークパトリックモデルは、研修の効果を多面的に捉えることで、プログラムの改善や投資対効果の向上に寄与する実用的なツールである。

HPI

HPI(Human Performance Improvement、人材パフォーマンス改善)は、個人や組織のパフォーマンスを向上させるための体系的なアプローチである。ビジネス環境や業務プロセスの課題を特定し、それを解決するための戦略や手法を設計・実行することで、効果的な成果を引き出すことを目的とする。

HPIは、単なるスキルや知識の向上を目指すだけでなく、組織全体の目標達成に寄与する実践的なアプローチを取る点が特徴である。そのプロセスは、問題の原因を明確化し、それに基づいた具体的な解決策を立案することから始まる。次に、適切なリソースの提供や環境の整備を行い、持続的な改善を目指す。

HPIの成功には、パフォーマンス評価の指標を明確にし、改善の進捗を継続的に測定することが重要である。また、従業員のスキルやモチベーションだけでなく、業務プロセスや組織文化などの外部要因も考慮する必要がある。

HPIは、人材開発だけでなく、業務プロセス全体を視野に入れることで、個人と組織の双方に持続的な価値をもたらす手法である。

SMARTの法則

SMARTの法則は、目標設定を効果的に行うためのフレームワークである。この法則は、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限が明確)の5つの要素で構成される。

Specific(具体的)

Specificとは、目標を曖昧にせず、誰が何をどのように達成するのかを明確にすることである。具体的でわかりやすい表現を用いることが重要である。

Measurable(測定可能)

Measurableとは、進捗や達成度を評価できるよう、数値や具体的な指標を設定することである。これにより、目標がどの程度達成されているかを客観的に判断できる。

Achievable(達成可能)

Achievableとは、現実的で実現可能な範囲の目標を設定することである。無理のある目標はモチベーションの低下を招くため、挑戦的でありながらも現実的な水準を設定することが重要である。

Relevant(関連性がある)

Relevantとは、目標が個人や組織全体の目標や戦略に合致していることを確認するプロセスである。目標が全体の方向性と一致していることで、達成の意義が高まる。

Time-bound(期限が明確)

Time-boundとは、目標達成のための具体的な期限を設定することである。明確な期限を設けることで、取り組みに緊張感を持たせ、目標達成に向けた行動を促進する。

SMARTの法則を活用することで、実現可能で測定可能な目標を設定し、個人や組織の成果向上に寄与することが期待される。具体性と実現性を兼ね備えた目標は、成長を後押しし、継続的な成功を支える基盤となる。

経験学習サイクル

経験学習サイクルとは、デイビッド・コルブが提唱した学習理論であり、個人が経験を通じて学びを深め、成長するためのプロセスを体系化したものである。この理論は、「具体的経験」、「内省的観察」、「抽象的概念化」、「能動的実践」という4つのステップから構成されている。

具体的経験

「具体的経験」とは、現実の状況や課題に直面し、それに取り組むプロセスである。ここで得た体験が学びの基礎となる。

内省的観察

「内省的観察」とは、その経験を振り返り、何が起きたのか、どのような結果が得られたのかを深く考察するプロセスである。「反省的思考」や「リフレクション」とも呼ばれ、行動の改善につながる教訓、気づきを得る。

抽象的概念化

「抽象的概念化」とは観察から得られた学びを抽象的な理論やモデルとして整理するプロセスである。具体的な経験や観察結果を一歩引いて抽象化し、他の状況にも応用できる知識やスキルに変える。

能動的実践

「能動的実践」とは、抽象的概念化で導き出した理論やモデルを新たな状況に適用し、試していくプロセスである。このプロセスを通じて、理論やモデルを改善する。

一連のサイクルを繰り返すことで学びを深化させ、自己成長を促進する効果的な方法である。

思考の6段階モデル

思考の6段階モデルは、アメリカの教育心理学者ベンジャミン・ブルームが提唱した教育理論である。思考のプロセスについて知識の習得から創造的な問題解決までの過程を6つの段階に分類し、それぞれの段階に応じて必要な能力を高める訓練が必要とする考え方である。

知識

「知識」の段階では、事実や情報、概念を記憶し、再現する能力を保有している。たとえば、用語の定義を覚えたり、事例を記憶したりすることが含まれる。

理解

「理解」の段階では、知識を単に覚えるだけでなく、その意味を把握し、説明できる能力を保有している。情報を分類したり、解釈したりすることで、学びを深める。

応用

「応用」の段階では、習得した知識や理解を実際の場面や問題に適用する能力を保有している。理論を具体的な状況に当てはめたり、課題解決に利用したりすることが含まれる。

分析

「分析」の段階では情報を構成要素に分解し、それぞれの関係性や構造を明らかにする能力を保有している。複雑な問題を要素に分けて考察し、その意味や影響を考える。

評価

「評価」の段階では、特定の基準に基づいて判断を下し、意見を形成する能力を保有している。情報の正確性や価値を評価し、結論を導くことが含まれる。

創造

「創造」は思考の最も高度な段階であり、既存の知識や概念を基に新しいアイデアや解決策を生み出すことを指す。革新的なアプローチや新しい方法の提案が含まれる。

このモデルは、教育現場だけでなく、ビジネスや問題解決の場でも活用され、思考を体系的に深めるための有効な手法として広く知られている。

人材育成の成果を最大化するフレームワーク

人材育成においては、複数の手法を組み合わせて活用することが重要である。各フレームワークには特有の強みがあり、目的や状況に応じて適切に組み合わせることで、より効果的な育成計画を実現することができる。組織や企業が抱える課題や目標に応じて最適な手法を選び、それらを補完的に活用することで、人材育成の成果を最大化できる。

本章で紹介した「カークパトリックモデル」、「HPI」、「SMARTの法則」「経験学習モデル」、「思考の6段階モデル」は、それぞれ異なる視点から人材育成を支える実践的なツールである。これらを組織のニーズに合わせて適切に活用することが、人材育成計画成功の秘訣となるだろう。

人材育成で有用な手法

e-ラーニング

e-ラーニングは、オンラインで学習を進める学習形態である。インターネット環境さえあれば、場所や時間を問わず受講可能であり、従業員が自らのペースで学習を進められる点が大きな特徴である。この特性は、多忙なビジネスパーソンやリモートワーク環境下での従業員育成に特に有効だ。

e-ラーニングは近年、充実している。例えばグロービス学び放題では、経営戦略からコミュニケーション、リーダーシップ、会計・財務、デザインなど幅広い講座が安価に提供されている。

OJT

OJT(On-the-Job Training)とは、職場で実際の業務を通じて行う社員教育の方法である。業務の中で必要な知識やスキルを、上司や先輩社員が指導・サポートしながら育成する。若手社員のスキル開発ではOJTが一般的だ。若手社員のOJTでは、雑用からスタートさせ徐々に難しい実務を任していくことが一般的である。

例えば経理ならば1年目に「債権管理」を任せることが多い。口座の入出金管理や延滞している請求先への督促など、経理知識がなくても行うことができる。その傍らで、財務会計からは伝票のファイリング、管理会計からは日報の数値入力など雑務が振られることもあるだろう。雑用をこなしていくうちに、経理の幅広い実務が見え、難しい仕事を任していくことが多い。OJTのポイントは、雑用からスタートし、徐々に難しい仕事を任せていくことで、階段を上っていくように仕事の幅を広げることにある。

人材育成における課題とその対策

「業務が忙しく、人材育成の時間や余裕がない」

既存業務と人材育成施策とのバランスは、多くの企業が直面する課題の一つである。日々の業務が忙しい中で、人材育成の時間を確保する余裕がないという意見は多くある。よくある相談として以下の内容が挙げられる。

  • 上司が非常に忙しく、部下に雑用を多く振らざるを得ず将来の職域拡大を見据えたOJTが困難。
  • 管理職が部下のワークライフバランスと人材育成、自身の業務量で板挟みになり、結果として部下の人材育成がうまくいっていない。

こうした状況を放置した場合、従業員のスキル向上が困難になるのみならず、「成長を実感できない」という理由でモチベーション維持が難しくなり、長期的な組織の成長に悪影響を及ぼす恐れがある。さらにZ世代社員の主な離職理由として「自己の成長が実感できない」が挙げられており、人材育成は離職防止の観点からも不可欠である。

対策

この課題を克服するためには、計画段階で自社の風土や業務内容を考慮し、現実的で実行可能な育成計画を設計することが重要である。例えば、業務時間内に短時間で学べるプログラムや、eラーニングを活用することで、負担を最小限に抑えながらスキル向上を図ることができる。また、具体的な育成目標を設定し、その達成度を定期的に確認することで、業務と育成の両立が可能となる。

人材育成は業務の合間に行う付加的な活動ではなく、企業の持続的成長を支える重要な施策である。効率的な育成方法を取り入れ、業務とのバランスを保ちながら、従業員の成長を支援することが求められる。

「企業全体での人材育成の知見が不足している」

企業全体での人材育成の知見が不足していることも、多くの企業が直面する課題である。育成担当者が一定の知識を持っていても、組織全体としてノウハウが不足している場合、育成施策が効果的に機能しないことがある。

対策

この課題に対しては、専門的なプログラムを育成担当者に提供し、知見を充実させることが必要である。また、外部コンサルティングを活用し、効果的な育成手法を社内に導入することも有効な対策となる。これにより、育成の質を高めるだけでなく、担当者間でノウハウを共有し、組織的な知見の蓄積が可能となる。

さらに、既存業務と人材育成施策のバランスを取ることも重要である。計画段階で自社の風土や業務内容に基づいた設計を行い、短時間で学べるプログラムやeラーニングを活用することで、業務負担を軽減しながら効果的な育成を実現できる。企業全体での知見を深める取り組みが、持続可能な成長の基盤となる。

「経営単位での計画的な人材育成ができていない」

人材育成が計画的に進められていない企業では、課題感や目標設定が曖昧なままプロジェクトが進行し、成果が得られないケースが多い。計画内容が不明確であれば、育成の進捗や効果を測定することが困難となり、施策の改善も滞る。また、長期にわたり育成計画が中断されることも、効果を大きく減少させる要因である。

対策

この課題を解決するためには、育成を経営戦略の一部として捉える視点が必要である。経営陣を巻き込み、人材育成の重要性を全社的に共有することで、組織全体のコミットメントを引き出すことが可能となる。これにより、育成計画が短期的な施策ではなく、持続可能な長期戦略として定着する。

さらに、具体的で実現可能な目標を設定し、その進捗を定期的に確認することで、計画の一貫性と効果を確保することができる。計画的な育成は、企業の競争力を高め、持続的な成長を支える基盤となる。

「社内で人材育成の重要性が理解されていない」

人材育成計画を成功させるためには、経営層だけでなく、現場の社員を含むすべての従業員がその重要性を理解し、積極的に参加することが必要不可欠である。しかしながら実際には、研修に消極的な声や業務に忙しいため研修に否定的な意見も現場から噴出している。人材育成が全社的な取り組みとして認識されず、現場との意識のギャップが課題となっている。

対策

この課題を解決するためには、まず育成の効果を具体的なデータや成功事例で示し、社員に共有することが有効である。人材育成によって業務効率や売上が向上した事例を示すことで、育成の価値を実感させることができる。また各社員や組織の業務に直結した育成プログラムを設計することで、日々の業務との関連性を明確にし、実践的な学びを提供することが求められる。加えて、社員の意見を反映した研修内容を作成することで、より効果的なプログラムを実現することが可能となる。

さらに、人材育成の目的や企業ビジョンを丁寧に伝え、経営層と社員がコミュニケーションを重ねることも必要不可欠である。社員一人ひとりが自らの成長が組織全体の成功に貢献することを理解し、主体的に参加できる環境を整える必要がある。一方的に研修を押し付けるのではなく、社員の共感を得ながら人材育成と企業ビジョンの重要性を共有することで、全社的な協力体制を築くことが可能となる。

まとめ

人材育成は、企業が競争力を維持し、持続可能な成長を実現するために不可欠な取り組みである。本記事では、企業における人材育成の計画を構築し、成功へ導くための基本的な手順と要素を解説した。これまでの内容を踏まえ、重要なポイントを整理すると、以下の4つの手順が重要である。

1.人材育成の定義と目的の明確化

人材育成とは、「会社の目標」を実現できる人材を育成する施策のことである。企業は自社の理念や戦略、現状課題を踏まえ、人材育成の目的を具体化することが求められる。

2.完成した社員のビジョンの設定

育成計画の基盤として、自社における理想的な社員像を明確にする。このビジョンは、社員がどのようなスキルや知識、姿勢を備えるべきかを示す指針となる。

3.具体的な施策のリストアップ

理想の社員像を実現するために必要な具体的なスキルや行動、育成施策をリストアップする。これにより、育成プロセスが体系的に整理される。

4.育成計画の策定と実行

リストアップした内容をもとに、具体的な「人材育成計画」を策定する。この計画は、目標を実現するためのロードマップとして機能し、計画的かつ効果的な育成を可能にする。

これらの手順を順に追って進めることで、各企業は自社の特性や戦略に適合した人材育成体制を構築することができる。人材育成は、単なる短期的な取り組みに留まらず、企業全体の持続的な発展を支える基盤である。また従業員にとっても「成長」や「やりがい」を実感できる組織になるだろう。

本記事で解説した内容を活用し、効果的な育成施策を実践することで、社員の成長と企業全体の競争力向上を実現してほしい。

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この記事の監修者

監修者の写真

株式会社フィンチジャパン 代表取締役

高橋 広嗣

早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。

出版

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法

PR Times記事

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>

ZUU online記事

https://zuuonline.com/authors/d7013a35

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