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人的資本経営とは何かわかりやすく解説:注目が集まる背景や取り組みのメリット、情報開示項目

                   
フレームワーク
公開日:2025.01.30更新日:2025年1月30日

人的資本経営」とは何かをわかりやすく言えば、「人材とは、コスト管理すべき【資源】ではなく、投資を行なうべき【資本】である」と考える経営戦略だ。

この人的資本経営が注目される背景には、人材版伊藤レポートという報告書によって「人的資本経営」というキーワードに注目が集まり、2023年3月期決算から有価証券報告書において人的資本に関する情報開示が求められるようになったことが要因として挙げられる。
参考:金融庁 サステナビリティ情報の開示

この人材を重視する風潮は大手企業に限ったものではない。中小企業においても、優先順位の高い経営課題として、「人材の確保」や「人材の育成」を上げている。
参考:2024年版 中小企業白書

結果として、企業は経営戦略や人材戦略の見直しを進めており、世の中には、様々なサービスが登場し始めている。

こうした行動の変化を促す「取り組まざるを得ないこと」を、新規事業開発の現場では「コンペリングイベント」と呼んでいる。まさしく、「人的資本経営」は新規事業のアイデア立案をするうえではつぶさに調査を行う対象となるコンペリングイベントだ。

今回の記事では、企業が推進している「人的資本経営」とは何かをわかりやすく解説し、その上で「自社の人的資本経営をどのように進めればよいか」だったり、「企業の人的資本経営に対して、どのようにアプローチができるか」といった事例を紹介する。この記事を読めば、自社の経営戦略として人的資本経営を実施するだけでなく、新規事業として企画し外部企業に提案する企画を作ることができるようになるだろう。

■人的資本経営とは、人材をコストではなく投資対象と見なす経営方針のこと

人的資本経営とは、企業の人材を資源(リソース)ではなく資本(キャピタル)として捉えることを指す。

わかりやすく言えば、人材にかけるお金を単なる費用ではなく、成長につながる投資とする経営の考え方の大きな変化(パラダイムシフト)だ。

投資対象だからこそ効果は数値で見える化されて然るべきで、経営層の企業戦略と連動しながら進められ、人材を囲い込むのではなく従業員と企業がお互いに、選び・選ばれる関係性に変わるべきだ、とする考え方だ。


出典:人材版伊藤レポートより引用

人的資本経営の考え方が広まったきっかけは、2020年1月に経済産業省が開催した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の議論をまとめた、「人材版伊藤レポート」という2020年9月に発表された報告書にある。

その2年後、2022年5月には、新しいアイデアを加えた「人材版伊藤レポート2.0」が発表され、同年の8月には、「人的資本経営コンソーシアム」が組成されている。

また、2023年1月には「企業内容等の開示に関する内閣府令」等が改正、2023年3月31日以降に終了する事業年度の有価証券報告書では、人的資本に関する情報開示が求められるようになっている。

人材戦略は今、人事部が機能戦略として管理するものではなく、経営層と連動して取り組む経営戦略になっていると言っても過言ではない。

▼資本と、資源や資産との違い

資本というキーワードは、「資源」や「資産」という言葉との比較で考えると、「人的資本経営」とは何かがわかりやすくなる。

資本・資源・資産は、企業が所有する人材などの有形物・無形物をヌケ・モレ・ダブリなく分類するカテゴリーというよりも、それぞれ用途が異なる概念だと理解してほしい。(つまり、決して「人材は資源ではなく、資本にカテゴライズすることが正しい」といった成否のある分類をするための用語ではない)

資源(リソース)は、使うことで価値が出るもの

まず資源(リソース)とは、コストとして使用・消費することで価値が出るものを指す。

代表的な経営資源は、「ヒト・モノ・カネ・情報」と呼ばれる4大経営資源が上げられる。

  • ヒト:従業員や人材など
  • モノ:製品や不動産、機械など
  • カネ:キャッシュや資金など
  • 情報:データやノウハウなど

これらは並列に重要視されており、適切に使用・消費するために、コスト管理される対象だった。

(ただし、4大経営資源は、厳密には並列でMECE(抜け・漏れ・ダブりがない)な括りではないと考えている。特に、情報はヒトに紐づいていることが往々にしてあるからだ)

資産(アセット)は、所有するだけで価値があるもの

また資産(アセット)とは、所有するだけで価値があるものを指す。先程の4大経営資源を資産に置き換えると次のようなものがある。

  • キャッシュ(預金や現金)、株式や債権
  • 土地・不動産
  • ソフトウェアやハードウェア、データベース
  • ライセンスや特許
  • 製造設備や社用車 など

これらは使用することでも価値を生むが、所有しているだけでも価値があるものでもある。

資本(キャピタル)は、投資によって価値が大きくなるもの

そして、資本(キャピタル)は、投資や工夫をして成長させることで、より大きな価値を生み出すものだ。

国際統合報告評議会(IIRC)は、持続可能な企業成長のために整備したフレームワークの中で、企業の資本を6つに分類、その中で財務資本と非財務資本に大別しており、この非財務資本の中に人的資本が含まれる。

  1. 人的資本:働く人のスキルや知識、経験など
  2. 社会・関係資本:顧客や取引先との関係、企業のブランドや評判など
  3. 知的資本:特許や技術・ノウハウ、ビジネスモデルなど
  4. 製造資本:製造設備や原材料など
  5. 自然資本:土地やエネルギー、環境配慮など
  6. 財務資本:現金や株式、借入金などのお金

ポイントは財務資本だけでなく、非財務的な資本にも注力して価値を大きくすることが、企業の持続可能な成長に必要だと整理していることだ。

資本と資源と資産の違い

まとめると、人的資本経営の資本(キャピタル)は、資源(リソース)と資産(アセット)と比較して、次のように定義できる。

  • 資源(リソース):使うことで価値が出るもの
  • 資産(アセット):持っているだけで価値があるもの
  • 資本(キャピタル):投資や育てることで価値が増えるもの

繰り返しになるが人的資本経営とは、「人材にかけるお金を単なる費用ではなく、成長につながる投資」とする経営の考え方の大きな変化(パラダイムシフト)だと言える。

▼人的資本経営の推進が求められる5つの背景

現代において人的資本経営が求められる背景を整理すると、事業環境を取り巻く背景が5つ整理できる。

  1. ESG対応の推進
  2. 無形資産の価値向上
  3. グローバル競争の激化
  4. 労働市場の変化
  5. デジタル技術の進展

1.ESG対応の推進

1つ目は、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応が進んでいることだ。

ESGとは、企業が責任ある行動を取るための基準のことだ。企業は従業員の多様性や働きがいを重視し、社会(S)に貢献しながら競争力を高めることを求められている。

この背景を後押しするように、2021年に改定されたコーポレートガバナンス・コードでは、企業が人的資本への投資を戦略に組み込み、その成果を開示することが期待されている。

2.無形資産の価値向上

2つ目は、無形資産の価値が向上しているということだ。

知識、スキル、企業文化などの無形資産の価値が高まり、これらを効果的に活用することが企業の成長に欠かせなくなっている。物的資産だけでは持続可能な競争優位性を確保できない現代では、人材育成や組織力の強化が重要視されるようになった。

3.グローバル環境の競争激化

3つ目は、グローバル環境の競争激化に伴い、人的資本活用が迫られていることだ。

国際的な競争環境が激化し、企業は限られた資源で最大の成果を上げるためには、人的資本を戦略的に活用する必要がある。特に、前述の無形資産の価値向上の流れもあり、日本企業は物的資産中心の経営から、人的資本を中心とした無形資産の活用へシフトする必要性が生じている。

海外に目を向けると、アメリカでは米証券取引委員会(SEC)が2020年8月から人的資本の情報開示を義務化している。

4.労働市場の変化

4つ目は、労働市場の変化によって、多様な人材・多様な働き方を認める必要性が出ていることだ。

少子高齢化やグローバル化の進展により、日本では労働力人口の減少が課題となっている。企業は人材の多様性を高め、魅力的な職場環境を提供して優秀な人材を引きつける必要がある。「人材版伊藤レポート2.0」では、従業員のキャリア形成支援や働きがいの提供が企業の競争力強化の鍵であるとされている。

5.デジタル技術の進展

5つ目はデジタル化の進展による、DX推進の流れだ。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴い、企業はデジタルスキルを持つ人材の確保やリスキリングを急務としている。これにより、企業全体の競争力を高め、変化する市場環境に対応することが求められている。

▼企業を取り巻くステークホルダーの要請

こうした事業環境の変化に伴い、企業のステークホルダーは次のような要請があり、人的資本経営が推進される流れを作っている。

  • 従業員の要請:多様な人材・多様な働き方
  • 経営層の要請:DX推進・デジタル対応
  • 投資家の要請:情報開示による経営評価
  • 国の要請:人的資本経営取り組み状況の開示の義務化

従業員の要請:多様な人材・多様な働き方の要請

現代の従業員は、従来の「決められた時間・場所で働く」という枠を超え、より柔軟で多様な働き方を求めている。リモートワークやフレックスタイム制の導入に加え、仕事とプライベートの両立(ワークライフバランス)を重視する傾向が強まっている。さらに、キャリア形成のためのスキルアップ支援も重要視されている。

まず、そのために企業は従業員の学び直し(リスキリング)や能力開発の機会を提供する必要がある。

そして、「人材版伊藤レポート2.0」では、従業員のエンゲージメント向上が企業の競争力向上につながることが強調されている。従業員エンゲージメントとは、「会社や仕事に愛着・信頼を持って、主体的な行動をしようとする」状態を指す。エンゲージメント向上のために、企業には「働きがい」の提供や、個々のキャリアパスを尊重する制度の整備が求められている。

また、多様なバックグラウンドを持つ人材の活躍推進として、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)への対応が不可欠となっており、企業は性別や国籍、年齢にとらわれない公正な評価と処遇を実施する必要がある。

経営層の要請:DX推進とデジタル対応

一方、経営層にとって、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は避けられない課題となっている。市場環境の変化に迅速に対応し、デジタル技術を活用した業務効率化や新規事業の創出が求められている。

そのため、従業員のデジタルスキル向上を目的とした教育投資の強化が不可欠となっている。

「人材版伊藤レポート2.0」では、経営戦略と人材戦略の統合の必要性が強調され、企業はデータドリブンな意思決定を行うための体制を整え、デジタルリテラシーを備えた人材の確保・育成を進めるべきであるとされている。また、DXに伴う働き方の変革に対し、従業員の適応力を高めるための継続的な学習環境の提供も経営層の責任として問われている。

投資家の要請:情報開示による経営評価

また、投資家は、企業の成長性や持続可能性を評価する際に、財務情報だけでなく非財務情報(人的資本など)を重視する傾向を強めている。特に、人的資本への投資が企業の長期的な競争力にどのように貢献しているのかを示す情報の開示が重要視されている。

2022年8月には、内閣官房の「非財務情報可視化研究会」によって「人的資本可視化指針」が公表され、企業が人的資本に関する情報を開示するためのガイドラインが示された。

さらに、2023年3月期以降、東京証券取引所の上場企業約4,000社に対して、有価証券報告書での人的資本に関する「戦略」と「指標および目標」の開示が義務付けられた。

投資家は企業の人的資本戦略の透明性を確認し、経営の質を評価する重要な判断材料として活用し始めている。

国の要請:人的資本経営の取り組み状況の開示義務化

そして政府は、人的資本経営の推進を企業の持続可能な成長の鍵と位置づけ、その普及と情報開示の義務化を進めている。人的資本経営の実践を促すためのガイドラインやフレームワークが策定され、企業が自社の人材戦略を明確にし、情報を適切に開示することが求められている。

2020年に公表された「人材版伊藤レポート」では、企業価値向上のために「人材をコストではなく資本として捉えるべき」との考えが示され、その後の「人材版伊藤レポート2.0」では、企業に対し、人材育成や従業員エンゲージメントに関する指標を設定し、経営戦略と統合することが推奨された。

また、政府は企業の人的資本経営の取り組みを可視化するため、人的資本に関するデータの統一的な開示基準を整備し、国際基準(ISO 30414など)に沿った情報開示を推奨している。このような取り組みにより、人的資本経営の実施状況を国内外のステークホルダーと共有し、企業の透明性を高めることが目的とされている。

■企業が人的資本経営に取り組む9つのメリット

こうした背景や要請を踏まえて、企業は人的資本経営の推進が社内からも外部環境からも求められているという状況だ。こうした要請に応えて企業が人的資本経営に取り組むメリットをまとめると、大きく9つある。

1.従業員の能力が可視化できる

人的資本経営に取り組むことで、従業員一人ひとりのスキルや知識、適性をデータとして把握できるようになる。これにより、適材適所の配置が可能となり、社員のパフォーマンスを最大限に発揮することができる。

また、タレントマネジメントシステムの導入も人的資本経営推進の流れで増えており、継続的なスキルの向上やキャリアパスの明確化が進んでいる。

2.生産性が向上する

能力が可視化されることで、従業員は自分の役割をより理解し、効率的に働くことができる。その結果、業務プロセスが最適化され、企業の生産性が向上する。

生産性の向上は、DXにおいても競争力の強化のために求められる指標のひとつだ。

人的資本への投資は、スキルの向上を促し、従業員の能力を最大限に引き出すことができる。その結果、業務効率が向上し、企業全体の生産性が高まる。さらに、適切な人材配置により無駄なコスト削減が可能となり、利益の拡大につながる。

3.従業員エンゲージメントが向上する

従業員が自身の成長を実感できる環境を整えることで、仕事への満足度やモチベーションが向上する。

企業が従業員の成長をサポートし、適切な役割を与えることで、従業員は企業に大切されているという意識を生み、結果としてエンゲージメントの向上が、離職率の低下と主体性の向上につながる

4.人材が確保しやすくなる

エンゲージメントが向上し、働きやすい環境が整うと、社内外の評判が向上し、優秀な人材を引きつけることができる。

従業員に働きやすい環境を提供し、成長機会を提供する企業は、求職者から魅力的に映るからだ。

多様な働き方や成長機会の提供は、競争力のある人材の確保につながる。

5.イノベーション創出基盤の強化ができる

多様な人材が確保され、活躍できる環境が整うことで、異なる視点やアイデアが生まれ、企業の成長につながるイノベーションが促進される。

特に、ダイバーシティや働き方の柔軟性を強化することで、多様な人材を引きつけ、優秀な人材が集まりやすくなる。

多様なバックグラウンドを持つ従業員が活躍できる環境を整えることで、異なる視点からのアイデアや新しい価値創造が促進されるので、人的資本経営は、イノベーションの創出基盤として機能し、持続的な企業成長の源泉となる

6.ブランド価値が向上する

イノベーションの実績が積み重なり、働きがいのある企業文化が形成されることで、社会的な評価が高まり、企業ブランドの向上へつながる。

企業が人的資本への投資を重視し、従業員の成長を支援することが、社会的な評価を高め、企業ブランドの向上にもつながる。

7.投資家へのアピールになり、投資額が増加する

企業ブランドが向上し、人的資本への取り組みが外部に適切に開示されることで、投資家の関心を集め、投資の拡大が期待できる。

先述した通り、2023年3月期以降、有価証券報告書において人的資本に関する開示が義務化され、投資家の関心も高まっている。人的資本経営を実践し、従業員のスキルや働きがいを向上させる取り組みを行うことで、投資家の評価が向上し、持続可能な成長を目指す企業としての信頼を獲得できるのだ。

つまり人的資本の充実は、将来の成長可能性として投資家に評価される。

8.経営の持続可能性が強化できる

こうして投資を受け、従業員のスキルも向上し、イノベーションを生み出し続けることで、企業の競争力が高まり、不確実な市場環境に対しても持続的な成長が可能となる。

人的資本経営は、企業の柔軟性やレジリエンスが向上させ、不確実な市場環境に対しても適切に対応できる組織を構築できる。また、従業員の能力開発を通じて、長期的な成長を実現しやすくなる。

9.コンプライアンス対応の強化に繋がる

最後に、人的資本経営の取り組みを適切に管理・開示することで、国内外の法規制やガイドラインに対応し、企業の信頼性と透明性を高めることができる。

国内外の法規制やガイドラインへの対応が求められる中、人的資本経営の導入により、企業はガバナンスの強化や透明性の向上を実現できる。特に、人的資本に関する情報開示が義務化されたことで、適切なデータ管理と報告が不可欠だ。

これらのメリットをわかりやすくまとめると、人的資本経営は単なるコスト削減ではなく、企業の競争力を高め、持続的成長を実現するための重要な戦略的取り組みとして位置付けられる。

情報開示する項目

こうして取り組みが進む人的資本経営は、情報開示とセットになっている。

先述した通り、2022年8月に内閣官房より「人的資本可視化指針」が発表され、企業がどのような情報を開示すべきかのガイドラインが示された。

これに続き、2023年3月期以降、東京証券取引所の上場企業約4,000社に対して、有価証券報告書において人的資本に関する「戦略」と「指標および目標」の開示が義務化された。これは企業は人的資本経営の取り組みを、財務情報と同じくらい重要な経営情報として報告しなければならなくなったことを示す。

企業が人的資本経営に関する情報を開示することで、企業は従業員の成長や働きやすさ、多様性の確保といった取り組みを透明に示すことができ、投資家や社会からの信頼を得ることができる。

また、人的資本の開示は、企業の価値向上のみならず、従業員、投資家、取引先、社会全体といった幅広いステークホルダーへの説明責任を果たす手段となるのだ。企業が人的資本に関する取り組みを適切に開示することで、持続可能な成長の実現、経営の透明性向上、投資家への信頼強化といったメリットにもつながる。

では、人的資本経営の取り組みはどのように情報開示すればよいのだろうか。

人的資本経営の情報開示項目は、各省庁や国際機関の方針に基づいて定められている。

主要な開示指針には、以下のようなものがある。

1. 内閣官房による「人的資本可視化指針」

2022年8月に発表された「人的資本可視化指針」では、企業が人的資本を数値化し、透明性を高めるための基本指針を例示している。主な開示項目の例は以下の通り。

1.人材育成

  • 研修時間
  • 研修費用
  • パフォーマンスとキャリア開発につき定期的なレビューを受けている従業員の割合
  • 研修参加率
  • 複数分野の研修受講率
  • リーダーシップの育成
  • 研修と人材開発の効果
  • 人材確保・定着の取組の説明
  • スキル向上プログラムの種類、対象等

2.従業員エンゲージメント

  • 従業員エンゲージメント

3.流動性

  • 離職率
  • 定着率
  • 新規雇用の総数・比率
  • 離職の総数
  • 採用・離職コスト
  • 人材確保・定着の取組の説明
  • 移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
  • 後継者有効率
  • 後継者カバー率
  • 後継者準備率
  • 求人ポジションの採用充足に必要な期間

4.ダイバーシティ

  • 属性別の従業員・経営層の比率
  • 男女間の給与の差
  • 正社員・非正規社員等の福利厚生の差
  • 最高報酬額支給者が受け取る年間報酬額のシェア等
  • 育児休業等の後の復職率・定着率
  • 男女別家族関連休業取得従業員比率
  • 男女別育児休業取得員従業数
  • 男女間賃金格差を是正するために事業者が講じた措置

5.健康・安全

  • 労働災害の発生件数・割合・死亡数等
  • 医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明
  • 安全衛生マネジメントシステム等の導入の有無、対象となる従業員に関する説明
  • 健康・安全関連取組等の説明
  • (労働災害関連の)死亡率
  • ニアミス発生率
  • 労働災害による損失時間
  • (安全衛生に関する)研修を受講した従業員の割合
  • 業務上のインシデントが組織に与えた金銭的影響額
  • 労働関連の危険性(ハザード)に関する説明

6.コンプライアンス・労働慣行

  • 人権レビュー等の対象となった事業(所)の総数・割合
  • 深刻な人権問題の件数
  • 差別事例の件数・対応措置
  • 団体労働協約の対象となる従業員の割合
  • 業務停止件数
  • コンプライアンスや人権等の研修を受けた従業員割合
  • 苦情の件数
  • 児童労働・強制労働に関する説明
  • 結社の自由や団体交渉の権利等に関する説明
  • 懲戒処分の件数と種類
  • サプライチェーンにおける社会的リスク等の説明

2. 有価証券報告書の開示義務項目

金融庁は、2023年3月期以降の有価証券報告書において、人的資本に関する情報開示を義務化した。この背景には、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の、情報開示のあり方を検討・審議がある。

内閣府令改正事項である「非財務情報の充実」を金融庁で検討・審議し、有価証券報告書のサステナビリティ情報の『記載欄』を新設。「ガバナンス」と「リスク管理」は、全ての企業が開示し、「戦略」と「指標と目標」は、各企業が重要性を判断して開示することとしている。

この中に『人的資本』に関する項目があり、「人材育成方針」と「社内環境整備方針」の記載項目を追加している。

また、『多様性』に関する項目の中では、 「男女間賃金格差」、「女性管理職比率」、「男性育児休業取得率」の記載項目を追加した。

3. ISO30414による11項目

ISO30414は、国際標準化機構(ISO)が2018年12月に発表した、人的資本に関するガイドライン準だ。

企業が人的資本をどのように測定し、報告すべきかを示している。以下の11項目が重要視されている。

  1. コンプライアンスと倫理(compliance and ethics)
  2. コスト(costs)
  3. 多様性(diversity)
  4. リーダシップ(leadership)
  5. 組織文化(organizational culture)
  6. 組織の健康・安全性・ウェルビーイング(organizational health, safety and well-being)
  7. 生産性(productivity)
  8. 採用・異動・離職(recruitment, mobility and turnover)
  9. スキルと能力(skills and capabilities)
  10. 後進育成の計画(succession planning)
  11. 労働力の確保(workforce availability)

出典:ISO 30414:2018 – Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting

■人的資本経営を実施する上で重要な3つの視点(3P)と5つの共通要素(5F)

人的資本経営を実施して、成功させるためには、「3P」と「5F」という考え方が「人材版伊藤レポート」および「人材版伊藤レポート2.0」に記載されている。

これらは、企業が人的資本経営を戦略的に実行するための視点(3P)と、共通要素(5F)を示し、具体的な実施取り組みをまとめたものだ。

3P:人的資本経営の戦略に必要な3つの視点(Perspectives)

「3P」とは、人材戦略を立てる際に欠かせない3つの重要な視点を示している。

3P:経営戦略と人材戦略の連動

まず、企業の経営戦略と人材戦略を一体化させることが求められる。今まで、人材戦略は人材部署の管轄であったが、経営層の考える経営戦略との一貫性をもたせる視点が必要ということだ。

経営目標を達成するために、どのようなスキルや人材が必要かを明確にし、経営陣が主導して人材の確保・育成計画を立てることが重要となる。そのために、KPI(重要業績評価指標)を活用し、戦略と人材管理を連携させることが求められる。

3P:As is-To beギャップの定量把握

次に、企業の現状(As is)と理想の姿(To be)とのギャップを数値的に把握し、課題を特定して解決することが必要だ。

具体的には、スキル不足や組織の課題を明確にし、それを埋めるための戦略を策定することが求められる。定量的なデータに基づく評価を行い、進捗を測定して継続的に改善していく必要がある。

3P:企業文化への定着

そして、人的資本経営の施策を企業文化に定着させることが不可欠だ。

企業理念や行動指針が従業員に浸透し、日常業務の中で実践されることで、持続可能な成長につながる。人材の多様性を尊重し、企業のパーパス(存在意義)に基づいた働き方を促進することが求められる。

5F:人的資本経営の戦略に必要な5つの共通要素(Common Factors)

「5F」は、人的資本経営を具体的に実践するための5つの重要な要素を示している。

5F:動的な人材ポートフォリオ

社員のスキルや経験、役割をリアルタイムで可視化し、事業戦略の変化に応じて柔軟に適切な人材配置を行うことが必要だ。

これにより、必要な人材を迅速に把握し、効果的に活用することが可能になる

5F:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)

異なるバックグラウンドを持つ従業員の知識や経験を活かし、多様な視点を取り入れることで、組織の創造力や意思決定の質を向上させることも必要だ。

ジェンダーや年齢、国籍の違いを超えたインクルーシブ(=包括的な)な環境を整えることで、全員が能力を発揮できる環境を整えることで、企業のアイデアやイノベーションが生まれやすくなる。

5F:リスキル・学び直し

デジタル化や技術革新の進展に対応するため、従業員に対する継続的な学習機会の提供が不可欠だ。

新しいスキルの習得やキャリア形成の支援を通じて、企業の競争力を高めることができる。

5F:従業員エンゲージメント

従業員が企業の目標に共感し、主体的に貢献する意欲を高めることも必要だ。

企業は、働きがいのある職場環境の整備や適切な報酬・評価制度を導入することで、エンゲージメントの向上を図り、社員の主体性を高められる。

5F:時間や場所にとらわれない働き方

テレワークやフレックスタイム制度など、従業員が柔軟に働ける環境を整備することが求められる。

これにより、ワークライフバランスの向上と業務効率の最大化にもつながる。

実施時の「3P」「5F」をわかりやすくまとめると?

「3P」は、企業が人的資本を活用するために欠かせない3つの考え方であり、経営戦略と人材戦略をしっかりと結びつけることが重要である。

一方で、「5F」は、人材の育成や働き方の改革など、具体的な行動を示しており、企業が実際に取り組むべきポイントを明確にしている。

このフレームワークを活用することで、企業は社員の成長を支援し、持続的な発展を実現することができる。

■人的資本経営に取り組む上での課題

とはいえ、新しい取り組みを実施するうえでは、現実問題としての課題にいくつか直面する。

人的資本経営の推進に立ちはだかる課題は、6つに整理できる。

1.KPIの設定と測定の難しさ

人的資本経営では、従業員のスキルやエンゲージメント、成長度合いなどを定量的に評価し、経営目標に結びつけることが求められる。しかし、無形資産である「人材」の価値を数値化するのは難しく、適切なKPI(重要業績評価指標)の設定や測定が課題となっている。

結果、多くの企業が、何を測定すべきか、どのように経営成果と結びつけるかを模索している状況だ。

2.取締役会の関与と役割の明確化が必要

人的資本経営を企業戦略と連携させるためには、取締役会の積極的な関与が必要である。しかし、多くの企業では、取締役が人的資本の重要性を十分に理解しておらず、戦略的な議論が進まないケースが見られる。

人的資本を財務情報と同等に扱い、経営にどのように組み込むかが課題となっている。

3.人事部門のケイパビリティ(能力)の向上が必須

人的資本経営を実行するためには、人事部門がデータ分析や戦略立案のスキルを向上させる必要がある。しかし、従来の人事業務とは異なり、より高度なデータ分析や経営視点を持つことが求められる。

人事部門の役割を再定義し、必要なスキルを強化することが求められている。

4.データ管理の課題

人的資本に関するデータ(従業員のスキル、パフォーマンス、エンゲージメントなど)を適切に収集・管理・活用する仕組みが必要である。しかし、多くの企業ではデータが部門ごとに分散していたり、正確な情報がリアルタイムで把握できない状況にある。

分散した情報を集約・リアルタイムで把握するための統合的なデータプラットフォームの導入が求められている。

5.組織文化の変革の必要性

人的資本経営を成功させるためには、単なる制度の導入だけでなく、企業文化を変革し、全社的な意識改革が必要である。しかし、従業員の意識改革やマネジメント層のリーダーシップ強化が不足している企業が多く、実践に至るまでのプロセスに時間がかかることが課題となっている。

6.短期的な成果へのプレッシャー

人的資本への投資は中長期的な視点での成長を促すものだが、短期的な業績向上を求めるプレッシャーによって、人的資本投資が後回しにされるケースがある。これにより、必要な取り組みが十分に行われず、経営層の理解を得ることが難しい状況が見られる。

人的資本経営に取り組む事業・サービス事例

これらの課題に対応するためには、経営陣のコミットメント強化やデータドリブンな意思決定の促進、全社的な意識改革の推進が重要となる。そして、すでに世の中には「人的資本経営の実現を支援するためのサービスや事業」が既に立ち上がり始めている。

最後に、これらの事例をいくつか紹介したい。

従業員エンゲージメントの計測

従業員エンゲージメントを計測するためにエンゲージメントサーベイが用いられている。

エンゲージメントサーベイとは、従業員と組織のつながりの強さ(エンゲージメント)を数値化して把握する調査ツールだ。従業員のモチベーションや愛着心、貢献意欲などを測定することで、組織の現状を可視化し、課題改善につなげることができる。

具体的には、リンクアンドモチベーション社の「モチベーションクラウド」やアトラエ社の「Wevox」、ラフール社の「ラフールサーベイ」などのサービスがある。

リスキリング支援

企業が人材へ、eラーニングコンテンツや研修などの学習機会を提供することを支援するシステムやツール、事業が登場し始めている。

学習状況を分析するシステム(LMS: Learning Management System)や従業員エンゲージメントとの関係を計測するサービスもある。

具体的には、グロービス社や日本能率協会マネジメントセンター社などが事業を展開している。

人的資本SaaS

経営陣向けに、KPIや現状の人的資本指標をリアルタイムで可視化するSaaSが登場し始めている。

これらは人的資本開示に必要なデータ収集・分析を行ない、レポーティングを行なうサービスだ。

事例としては、クラウドワークス社の「Human&Human」やHCプロデュース社の「HCCloud」などのサービスが登場し始めている。

動的ポートフォリオ構築を支援するタレントマネジメントシステム

人材の配置や育成を目的に、従業員のスキルや経験を管理するためのシステムをタレントマネジメントシステム(TMS)と呼ぶ。

「伊藤レポート」では、経営戦略と連動しながら人材ポートフォリオを最適な状態にアップデートし続ける「動的なポートフォリオ」の構築が重要視されており、TMSは動的ポートフォリオの構築を支援することで注目が集まっている。

具体的には、カオナビHRBrainなどが該当する。

まとめ

人的資本経営とは、人材をコスト管理が求められる「資源」から、投資して価値を最大化できる「資本」だと考える経営戦略のパラダイムシフトだ。

その背景には、投資家が人材を非財務資本として重要視する傾向に加え、成熟した市場環境と働き方の多様化、従業員と企業が一方的な関係ではなく互いにエンゲージメントを深め合う関係に変化していることが挙げられる。そして、これらの背景を踏まえて、国が動いているということが大きな原動力になっている。

フィンチジャパンは、人材を資源ではなく資本と見なす考え方は、大企業だけでなく、中小企業にも応用して受け入れられる考えだと予測している。なぜならば、中小企業は慢性的な人材の課題を抱えており、人材の雇用や定着が死活問題となっているからだ。つまり、人的資本経営に裏付けされたこれからの企業の人材戦略市場は、企業の新規事業が展開できる可能性が高まっている市場だと見ている。

フィンチジャパンでは、こうした事業環境の変化を常にトラッキングしており、新規事業の開発や企業変革の推進をサポートしてきた。

もし、この記事を読み、「自社がどのように人的資本経営を実現すればよいか」といった経営戦略や人材戦略を考えているのであれば、まずは気兼ねなく当社に問い合わせてほしい。また、「新規事業の検討テーマとして、当社がどのような新規事業の企画を具体化すればいいか」と考えているのであれば、新規事業の企画検討を具体化するために役立つ資料を多数取り揃えているのでぜひ、ダウンロードしてほしい。

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この記事の監修者

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株式会社フィンチジャパン 代表取締役

高橋 広嗣

早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。

出版

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法

PR Times記事

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>

ZUU online記事

https://zuuonline.com/authors/d7013a35

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