DX人材を育成するスキルマップ運用ガイド:目的、運用方法、活用事例
公開日:2025.02.15更新日:2025年2月17日
新型コロナウイルス感染症の拡大以降、「DX」(デジタルトランスフォーメーション)は企業の競争力を強化する至上命題となり、「今後必要な要素になるかもしれない」という蓋然性のある状態から、「企業成長のための重要な課題」である必然性のある経営課題へと変化している。
本WEBマガジンを運営している株式会社フィンチジャパンにも「DX」に関連したコンサルティングに関した依頼が増加している。
企業におけるDX推進と切り離せない事項の一つが「人材育成」だ。
DXとは、デジタル技術を活用することで企業組織やビジネスモデルを変革することだ。
つまり必然的に全社単位の変革プロジェクトとなり、従業員全体でDXを推進できる人材へリスキリングを行う必要がある。
この記事では経済産業省の「デジタルスキル標準」に基づいたDX人材の定義、関連したDX人材育成手法について説明しつつ、DX人材育成をどのように運用するべきかを企業視点から解説する。
あなたの企業でのDX推進の成功のため、ぜひとも参考にしてみてほしい。
はじめに
DXが現代企業に求められている背景
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、現代企業が直面する多様な課題に対応するために不可欠な取り組みである。急速な技術革新やグローバル競争の激化により、従来のビジネスモデルや業務プロセスだけでは競争力を維持することが困難になっている。このような状況を踏まえ、企業はデジタル技術を活用して業務効率の向上、新たな価値創出、顧客体験の向上を実現する必要がある。しかし、日本企業の多くはDX推進において遅れを取っているのが現状である。
経済産業省の「DXレポート(2023年版)」によれば、日本企業の約7割がDX推進の初期段階から部分的整備に留まっており、DXの取り組みが全社的に定着した企業はわずか1割程度に過ぎない。DXの遅れの要因としては、既存のレガシーシステムへの依存、組織文化の硬直性、人材不足、そしてビジョンの欠如が挙げられている。
特にDX人材の不足は深刻な課題である。情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2024調査」によると、8割以上の企業がDX人材の不足を訴えており、中でもビジネスアーキテクトとデータサイエンティストが特に不足しているとされている。ビジネスアーキテクトとは、ビジネスや業務の変革を通じて実現したい目標を設定し、関係者間の調整をリードしながら、導入から効果検証までを一貫して支援する人材を指す。経済産業省の試算では、2030年までに最大で約79万人のIT人材が不足すると予測されており、この不足が日本企業の競争力低下を招くリスクが強く指摘されている。
このような背景から、企業は単なるIT技術の導入にとどまらず、組織全体のデジタル文化の醸成と変革のマインドセットの育成が求められる。それと同時に、DX人材の育成および採用の強化もDXの重要な課題だ。日本企業が国際的な競争力を回復し、持続的な成長を実現するためには、DXの重要性を深く理解し、迅速かつ計画的に対応することが必要になる。
DX推進と人材育成は表裏一体
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なるIT技術の導入に留まらず、企業の組織形態や業務フロー、ビジネスモデル全体を変革する取り組みである。そのため、DXは一部の専門部署やIT部門の従業員だけが担うものではなく、全社員がデジタルスキルを習得し、業務に活用できる体制が求められる。従業員一人ひとりがデジタル技術の基礎知識を持ち、実務に応用できるようにするためのリスキリング(学び直し)が不可欠である。
例えば、自動車部品サプライヤー大手のボッシュは、全社的にソフトウェアエンジニアの育成に注力している。具体的には、約40万人の従業員を対象に、2030年までに40億ユーロ(約6,480億円)を投資し、ソフトウェア開発やコーディング、セキュリティ、AIに関連する知識のリスキリングを進めている。こうした大規模な取り組みの背景には、自動運転やEV(電気自動車)の普及などにより、自動車業界が100年に一度の大変革期を迎えているという危機感が経営陣にある。
さらに、企業がDXを推進する際には、「何のためにDXを行うのか」という目的を明確にすることが重要である。例えば、新しいビジネスモデルの創出を目的とするのか、業務効率化を目指すのかによって、必要な人材像や育成方法の方針が大きく異なる。DXの目的に基づいた人材像の明確化こそが、効果的な人材育成を実現する鍵となる。
DXの推進は、業務内容やビジネスモデル、組織構造の変革に留まらず、従業員一人ひとりの業務の進め方やコミュニケーションのあり方にも影響を与える。そのため、DXの推進と人材育成は切り離せない関係にあり、両者を一体として進めることが、企業の持続的な成長と競争力強化に繋がるのである。
DX人材とは何か?
現在のDX人材の定義
「DX人材」という言葉には明確な定義は存在しない。しかし一般的には、デジタル技術を活用して企業の業務プロセスやビジネスモデルの変革を推進する役割を担う人材を指す。このため、DX人材には単なるITスキルにとどまらず、ビジネスモデルの変革や業務改革に必要な幅広い知識とスキルが求められる。
具体的には、データ活用力、プロジェクトマネジメント能力、リーダーシップといったスキルに加え、変革を推進するための戦略的思考や問題解決能力も重要である。例えば、IT技術を導入する際には、単に新しいシステムを導入するだけではなく、既存の業務フローの見直しや部門横断的な業務の標準化が求められる。この過程では、IT部門と他の業務部門との連携・調整能力が不可欠であり、単なるITシステムの知識だけでは不十分である。
加えて、業務の専門知識とIT知識の両方を理解し、それらを効果的に結び付ける力が求められる。DX人材は企業の中で技術とビジネスの橋渡しをする役割を担い、組織全体の変革を推進する中心的存在となる。
「デジタルスキル標準」について
経済産業省は、ビジネスパーソンが身につけるべきデジタルスキルや、企業が育成するべき人材像を明示するため「デジタルスキル標準」を公表している。「デジタルスキル標準」は、「D Xリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」の2つから構成されている。
デジタルスキル標準の構成
デジタルスキル標準で対象とする人材

出典:経済産業省デジタルスキル標準より引用
- デジタルスキル標準
- 「D Xリテラシー標準」:全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準
- 「DX推進スキル標準」:DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準
「デジタルスキル標準」は、企業や産業問わず運用可能な汎用性の高い指針として設計されており、特定の産業や職種、企業に依存しない。そのため、個々の企業や組織が運用する際には、自社の事業目標や方向性に合わせて具体化することが求められる。
「デジタルスキル標準」が策定された背景には、「デジタル田園都市国家構想基本方針」(令和4年6月7日閣議決定)において、「令和4年内にDX推進人材向けのデジタルスキル標準を整備する」という方針が示されたことがある。同構想では、デジタル技術を活用し、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」の実現を目指しているが、現状、デジタル人材が不足している。
この課題に対応するため、現役の社会人に向けて「デジタルスキル標準」を策定し、オンライン教育の提供を通じて、いつでも誰でもデジタルスキルを習得できる環境を整備する方針が打ち出された。
「デジタル田園都市構想」の実現には多くのデジタル人材が必要であり、政府は2026年度までに230万人のデジタル人材の育成を目指している。「デジタルスキル標準」を活用した体系的な人材育成が今後さらに重要となる。
4つのスキル要件
経済産業省による「デジタルリテラシー標準」では、すべての人材に求められるスキル要件として「Why」「What」「How」「マインド・スタンス」の4つが定義されている。
出典:経済産業省デジタルスキル標準より引用
「Why」
Whyの項目では「なぜDXが必要なのか?」という観点から、「D Xを理解する上で重要な、社会の動向、顧客やユーザーのニーズ、競争環境の変化についての知識」を定義している。学習のゴールとして「人々が重視する価値や社会・経済の環境がどのように変化しているか知っており、DXの重要性を理解している」を挙げ、以下の内容を学習内容としている。
- 社会の変化:
- 顧客の変化
- 競争環境の変化
「What」
「What」の項目は「ビジネスの場で活用されているデータやデジタル技術に関する知識を定義」とされている。同項目は、実際の業務で活用するか否かに関わらず、ビジネスパーソンが持っておくべきデータやDXに関する基本的な知識を位置づけたものである。具体的には、DXに関する記事や書籍を理解することや、DX人材と協働する際に必要な知識などを含めて、学習ゴールと学習内容が設定されている。
学習のゴールとして、「DX推進の手段としてのデータやデジタル技術に関する最新の情報を知ったうえで、その発展の背景への知識を深めることができる」としており、以下の内容を学習内容として定めている。
- データ
- 社会におけるデータ
- データを読む・説明する
- データを扱う
- データによって判断する
- デジタル技術
- AI
- クラウド技術
- ハードウェア・ソフトウェア
「How」
「How」の項目は「ビジネスの場でデータやデジタル技術を利用する方法や、活用事例、留意点に関する知識を定義」とされている。同項目では、実際の業務で知識・スキルを利用できる水準を学習ゴール、学習内容で求めている。
学習のゴールとして「データ・デジタル技術の活用事例を理解し、その実現のための基本的なツールの利用方法を身につけたうえで、留意点などを踏まえて実際に業務で利用できる」としており、以下の内容を学習内容として定めている。
- データ・デジタル技術の活用事例
- ツール活用
- セキュリティ
- モラル
- コンプライアンス
「マインド・スタンス」
「マインド・スタンス」の項目は、「社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要な意識・姿勢・行動を定義」とされている。この項目では、個人に求められる行動や姿勢だけでなく、組織・企業レベルでの取り組みも重要とされている。具体的には、「デザイン思考」や「アジャイルな働き方」を推奨し、「新たな価値を生み出す基盤となるマインド・スタンス」として以下の要素が挙げられている。
- 顧客・ユーザーへの共感
- 常識にとらわれない発想
- 反復的なアプローチ
- 変化への適応
- コラボレーション(協働)
- 柔軟な意思決定
- 事実に基づく判断
これらのマインド・スタンスは、社会変化に対応しながら価値創造を実現する上で重要な指針とされている。
DXリテラシー標準とDX推進スキル標準の違い
DXリテラシー標準とDX推進スキル標準は、DXを推進するために策定されたスキル指針であり、それぞれ異なる役割を担っている。
- DXリテラシー標準:全ビジネスパーソンが習得するべきDXの基礎的な知識やスキルを示した指針。
- DX推進スキル標準:DXを専門的に推進する役割を担う職種向けに、詳細なスキル要件。データ分析手法の高度な活用やAIモデルの設計・実装、業務プロセス改革の計画立案など、特定の専門分野で成果を上げるための実践的なスキルが含まれる
これら2つのスキル指針は補完的な役割を果たし、全社的なDX推進力を底上げすることを目指している。具体例として、全従業員向けにはAI対応スキルの基本を学び、専門職にはデータ分析の実務スキルを深めるといった段階的な育成が挙げられる。このように両標準を活用することで、組織全体がDXの進展に向けて一体的に取り組むことが可能となる。
DX人材育成の方法
スキルマップの内容と利用するメリット
スキルマップとは、従業員に求められるスキルとその達成レベルを一覧化したものだ。
これを活用することで、組織内のスキル状況を可視化し、適切な人材配置や育成施策の策定に役立てることができる。また、各従業員のスキルセットや部門ごとのスキル保有者数とその割合を把握することで、組織全体のスキルギャップを明確にできる。
スキルマップを活用するメリットは以下の通りである。
メリット1:各職種に要求されるDXスキルの明確化
例: 若手社員、中堅社員、管理職に求められるDXスキルの定義や、各社員に必要なIT知識の明確化など
メリット2:会社および各部門におけるDXスキル保有状況の把握
例: ITパスポートや情報セキュリティマネジメント資格の保有者数とその割合、企画部門でのプロジェクトマネジメント経験者の人数など
メリット3:戦略的な人材配置
例: 経理部門のDX推進に必要な業務プロセス改革経験者が不足している場合、他部門から適切な人材を異動させるといった対応
メリット4:戦略的なDX人材育成
例: データ分析スキルの保有者を社内の◯%に拡大する、サイバーセキュリティの基礎スキル保有者を◯%に増加させるといった具体的な目標の設定と、達成するための研修プランの策定
スキルマップを活用することで、職種ごとに求められるスキルや社内のスキル保有状況、不足しているスキル人材の把握が容易になる。
これにより、個々の従業員に対する適切な育成計画やトレーニングの提供が可能になるだけでなく、部門を横断したDX人材の合理的な配置や異動もスムーズに行うことができる。そのためスキルマップは、企業のDX推進を加速させる重要なツールであり、その活用は組織の競争力強化に直結すると言えるだろう。
スキルマップと併用してより効果を発揮する施策・ツール
スキルマップの適切な運用は、組織のDX推進力を強化し、持続的な成長に貢献するために必要不可欠である。スキルマップを効果的に活用するためには、学習管理システム(Learning Management System:LMS)やeラーニングシステムを併用することで、従業員のスキル向上をより効率的に支援できる。
LMS
まずLMSとは、従業員の学習進捗やスキル習得状況を一元管理できるシステムである。スキルマップで可視化した各従業員のスキルと会社が求めるスキルギャップに基づき、LMS上で必要な学習プログラムを自動的に割り当てることが可能になる。例えば、データ分析スキルが不足している従業員にはビッグデータ解析やAIの基礎コースを推奨する、プロジェクトマネジメントが未経験の従業員にはPMBOKコースを推奨するといったことが想定される。個別最適化された学習環境を提供することができる。
加えてLMSとスキルマップを連携することで、学習進捗の管理と評価が効率化される。LMSを通じて学習の進捗状況やテスト結果をリアルタイムで追跡し、スキルの習得状況をスキルマップに反映させることで、育成効果を定量的に評価することが可能である。これによりPDCAを効果的に回しながら、従業員のスキル向上が実現できる。
eラーニングシステム
またeラーニングシステムを活用することで、従業員が自身のスケジュールに合わせて学習を進めることが可能になり、従業員のスキル習得を促進できる。e-ラーニングは、仕事の合間のスキマ時間に受講可能なため、忙しい部門の従業員でも学ことができる。特にDX推進においては、データ分析、AI、クラウド活用といった最新技術の習得が求められるため、定期的に更新されるeラーニングコンテンツを活用することで、組織全体のDXリテラシーを向上させることも期待できる。
外部研修・ワークショップ
さらにDXに関する外部研修やワークショップの実施も、実践的なスキルを身につける上で有効な手段となる。ワークショップ形式の研修では、実際の業務課題を題材にしながらスキルを習得できるため、現場での即戦力となる知識や手法を身につけることが可能となる。当社でもDX専門研修を提供しており、こうした外部リソースを活用することで、より効果的な人材育成が実現できる。
DX人材の育成に役立つ資格
DX推進のためには、従業員のスキルアップとリスキリングが不可欠である。その手段の一つとして、各種資格の取得を推奨することは、体系的な知識の習得とスキルレベルの客観的評価に有効である。ここでは、DX人材の育成に役立つ主要な資格を紹介する。
DX検定™:
DX検定™は、一般社団法人日本イノベーション融合学会が提供する資格で、DXの基礎知識から最新技術の理解まで幅広くカバーしている。AI、IoT、ビッグデータ、クラウド技術などのデジタル技術に加え、ビジネスモデルの変革やデジタル戦略に関する理解度も問われる。DX検定で一定上のスコアレベルに達することで、IT技術やビジネス用語などDXに関わる一通りの知識を有することを証明することができる。
以下の3段階のスコアレベルで認定する。
- スコア800以上:
- DXプロフェッショナルレベル(DXの全体像をデザインしリードするレベル)に該当。
- 職種としては、ビジネスデザイナー、アーキテクト、プロデューサーを想定。(プロデューサーはスコア850以上を推奨)
- スコア700以上:
- DXエキスパートレベル(データ解析・AI・IoT・システムデザインなど、個別の業務をリードするレベル)に該当。
- 職種としては、UXデザイナー、データサイエンティスト、A Iエンジニアを想定。(データサイエンティストとA Iエンジニアはスコア750以上を推奨)
- スコア:600以上:
- DXスタンダードレベル(システムの実装・運営などを現場で担当するレベル)に該当。
- 職種としてはエンジニア、プログラマを想定。
また一般財団法人全日本情報学習振興協会は、DX検定として以下の3つの検定試験を実施している。
- DXパスポート試験
- DX推進アドバイザー認定試験
- DXオフィサー認定試験
DXバスポート試験:
DXバスポート試験とは、DXの基礎知識を確認する試験である。以下の2つの観点から出題している。
- DXとは何か?
- GAFAを代表する巨大企業による変革や、金融や小売り、製造の分野におけるDXの進行度合いについて学ぶ。
- DXに欠かせない技術
- AI・ビッグデータ・IoT・クラウドといった基礎知識について学ぶ。
DXパスポート試験で基礎知識を学んだ上で、DXアドバイザーで中級知識、DXオフィサーで上級のDX知識を学習するという位置付けである。
DX推進アドバイザー認定試験:
DX推進アドバイザー認定試験は、以下の3つの観点から出題している。
- DXの現状
- 企業やビジネスを変えるためのさまざまなデジタル技術
- トランスフォーメーションを推進するために必要な人材と方法論
DXを推進しようとする企業・担当者・プロデューサーなどとDXの実現に向けて議論を行ったり、これらにアドバイスを提供したりする人材の養成を目指す試験として想定されている。
DXオフィサー認定試験:
DXオフィサー認定試験は、マネージャーやオフィサーとそれをサポートする人材を想定した上級クラスの試験として位置付けられている。D X推進アドバイザー試験と同様にDXの現状やデジタル技術、トランスフォーメーションを推進する人材と方法論について、試験で問われる。
これらの資格を取得することで、従業員は最新のデジタル技術に加えて、ビジネスモデルの変革やデジタル戦略に関する知識を習得することができる。さらに、資格取得は個々のスキルレベルを客観的に評価できるため、組織全体のDX推進力向上に直結する。資格取得の推奨は、リスキリングの一環として、社員のモチベーション向上と成長意欲の喚起にも効果的だ。
スキルマップと各種ツールの効果的な運用について
企業におけるDX推進において、スキルマップの作成は重要な要素の一つである。しかしながらスキルマップを作成するだけでは、DX人材の育成にはつながるわけではなく、企業のDXが進むわけでもない。
スキルマップはあくまで現状を可視化する手段に過ぎず、それを活用し、適切な育成施策を講じることが不可欠である。
具体的には、「各社員のスキルの可視化」→「可視化した内容を基にした人材育成計画の策定」→「役職別・部署別などの分類での育成施策の実践」→「ワークショップ形式などを用いた伴走支援」→「再度可視化しての差分確認」というサイクルを回していくことが必要となる。
各社員のスキルの可視化
スキルマップの第一歩は、各社員のスキルを可視化することである。これにより、企業内の人材の強みや弱みを把握し、適切な育成計画を立案できる。スキルの可視化には、自己評価や上司評価、実績データなどを活用し、定量的・定性的な情報を収集することが重要である。
可視化した内容を基にした人材育成計画の策定
スキルの可視化が完了したら、そのデータを基に育成計画を策定する。各社員の強みを伸ばし、弱みを補完するための具体的な施策を設計する必要がある。これには、個別の学習プランの作成やメンタリングプログラムの導入が含まれる。
役職別・部署別などの分類での育成施策の実践
組織内で一律の育成施策を実施するのではなく、役職や部署ごとに適した育成方法を導入することが重要である。例えば、管理職にはリーダーシップ研修を、技術部門には最新技術に関するトレーニングを提供するなど、各部門の特性に応じた育成を行うことで、より実効性の高い人材育成が可能となる。
ワークショップ形式などを用いた伴走支援
スキル向上には、単なる座学ではなく、実践を通じた学習が有効である。ワークショップやOJT(On-the-Job Training)を活用し、社員が実際の業務を通じてスキルを身につける環境を整えることが重要である。特に、実際のプロジェクトを用いた実践型のワークショップは、より効果的なスキル習得につながる。
再度可視化しての差分確認
育成施策を実施した後は、再度スキルを可視化し、施策の効果を評価することが必要である。これにより、計画通りにスキルが向上しているかを確認し、必要に応じて育成施策を見直すことができる。PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回しながら、継続的にスキルアップを図ることが重要である。
スキルマップの作成と更新に、ツールを用いて効率化
このプロセスを支援するためには、適切なツールの活用も重要である。例えば、スキルマップの作成と更新には、データ管理ツールや可視化ツールを活用すると効率的である。
また、オンライン学習プラットフォームやプロジェクト管理ツールを組み合わせることで、個別の学習支援や業務を通じた実践的な育成が可能となる。
これらのツールと施策を適切に組み合わせることで、継続的な育成サイクルを回すことができる。
DX人材育成への各社取り組み事例
①:東京都のDX人材育成方針
東京都は現在、「デジタルの力でオール東京の行政課題の解決を図る」というビジョンの下、DX人材の育成の取り組みを強化している。DX人材の中核となるのが、「デジタルスキルマップ(DSM)」の活用だ。DSMは、東京都が職員のデジタルスキルを体系的に可視化し、戦略的な育成を進めるために導入したツールである。
DSMは、22項目のデジタルスキルと10種類のジョブタイプに基づいて構成され、各スキルについて0から3の4段階で評価する仕組みとなっている。このスキルマップにより、職員個々のスキルレベルを定量的に把握することが可能となり、職員のスキル状況を可視化することで、組織全体のDX推進力とスキルギャップの特定が容易になる。
ICTに関わる22のスキル項目

ジョブタイプごとに備えるべきスキル項目を整備

出典:東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver2.0より引用
DSM導入の背景には、2つの課題意識があった。
第一に、デジタル技術に関する「共通言語」の必要性である。庁内におけるデジタル用語の解釈が曖昧であることは、DX推進におけるコミュニケーションロスを招く要因となっていた。これを解決するために、東京都はデジタルスキルや業務の定義を標準化し、全職員が共通の理解を持てる環境を整備した。これにより、部門間の連携がスムーズになり、DX推進のスピードと精度が向上した。
第二に、職員のスキルの「現在地」を明確にする必要性である。DX推進のためには、現状のスキルレベルを正確に把握し、個々の職員がどのスキルをどのレベルまで習得しているのかを理解することが不可欠である。DSMの導入により、職員自身が自身のスキルレベルを客観的に評価できるようになり、個々の成長目標を設定しやすくなった。これにより、組織全体としても必要なスキルの分布を把握し、効率的な人材育成計画を策定することが可能となった。
DSMの活用により、東京都は職員のスキルに応じた戦略的なリスキリングとアップスキリングの推進を実現している。例えば、スキルギャップが特定された職員には、個別にカスタマイズされた研修プログラムやeラーニングが提供され、デジタル技術の習得が体系的に進められている。特に、AI、ビッグデータ、クラウド技術、サイバーセキュリティといった分野のスキル習得に力を入れており、これにより実務に直結するスキルの強化が図られている。
さらに、DSMの結果を基にした適材適所の人材配置も進められている。スキルマップを活用することで、特定のプロジェクトや業務に必要なスキルを持つ人材を迅速に特定し、最適な部署への異動や配置が可能となった。これにより、DXプロジェクトの推進力が強化され、効率的なプロジェクト運営が実現している。
東京都はまた、外部機関との連携も積極的に行っている。民間企業や専門機関と連携することで、最新のデジタル技術や業界動向を取り入れた研修プログラムを提供し、常に最先端の知識とスキルを習得できる環境を整備している。これにより、行政の枠を超えた柔軟な発想と技術導入が促進され、都市の課題解決に貢献している。
このように、東京都はDSMを基盤とした人材育成を通じて、全庁的なデジタルリテラシーの向上とDX推進を加速させている。スキルマップの活用と体系的な人材育成方針の連携により、東京都は行政サービスの質向上と業務の効率化を実現し、市民にとってより利便性の高い行政の提供を目指している。今後もDSMの継続的な見直しと改善を行い、DX推進におけるリーダーシップを発揮していく方針である。
②:中部電力
中部電力グループでは、DX推進において変革を牽引するリーダーの不足が課題となっていた。この課題を解決するため、マネジメント層の意識改革に注力し、2023年秋にNECの実践型研修プログラムを導入した。
この研修プログラムでは、デジタル技術の理解だけでなく、DX推進に必要なビジネススキルやプロジェクトマネジメントスキル、そして変革を推進するマインドセットの醸成が重視された。特に、マネジメント層が自らの役割を再認識し、組織全体でDXを推進するリーダーシップを発揮することが求められた。
研修の結果、マネジメント層の意識改革が進み、DX推進のリーダーシップが強化された。これにより、グループ全体でのDX推進体制が整い、変革を牽引するリーダーの育成が進んだ。中部電力グループは、今後もこのような取り組みを継続し、DX人材の育成と組織全体の変革を推進していく考えである。
まとめ
ここまでDX人材育成に関する社内ミッションにおいて、スキルマップを運用してどのように達成するのかを説明してきた。
だが理論として学習することと、自社で実践することには大きな隔たりがある。
社内の状況や部署間・経営層と他社員との関係性などの社内風土などで人材育成・DX施策に着手する方法はフレキシブルに変える必要がある。
フィンチジャパンではDX人材向け研修やDX戦略立案などのコンサルティングサービスを実施しており、希望者には弊社社員による無料の個別相談も実施している。
あなたがDX人材育成に悩んでいるならば下記フォームから問い合わせすることも検討してほしい。
あなたの抱えているDX人材育成というミッションが成功することを祈っている。
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この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
ZUU online記事
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