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ミレニアル世代を取り込むM&A事例:ブランドの撤退とスタートアップ買収

                   
ミレニアル世代
公開日:2018.01.23更新日:2018年1月29日

Beautiful blond lady testing and buying cosmetics in a beauty store.

ミレニアル世代をどう理解し取り組むか、これはマーケティング担当者が取り組むべき課題のひとつだろう。

2017年6月、米国に本社を置く化粧品のグローバル企業ESTEE LAUDER(エスティローダー)が、ミレニアル世代向けに開発したブランドTHE ESTEE EDIT(エスティエディット)を1年ほどで撤廃すると発表し、業界内で大きな話題となった。今回はその背景にある、ミレニアル世代を取り込むマーケティングについて事例ベースで紹介しよう。

ミレニアル世代のマーケティング戦略

事例:ESTEE LAUDER(エスティローダー)の戦略転換

エスティ・ローダーは、1946年に米国で創業した化粧品・スキンケア用品・ヘアケア用品・香水等を手がける世界的なブランドホルダーである。クリニークやMAC、トミー・ヒルフィガーと言った日本で知名度の高いブランドも同社の傘下にある。

創業以来、女性の美と感性を追求し続けており、独自の製品開発や有名女優を起用した大胆なプロモーションを手がけてきた。

同社の主力のチャネルは路面店、つまり店舗販売だったが、近年ソーシャルメディア活用を軸とした販売戦略へのシフトを鮮明にした。その契機となったのは、 本社のある米国内における店舗販売での売上低迷だ。例えば、米国の百貨店Macy’sはエスティ・ローダーにとって国内の主要な販売チャネルの一つだったが、Macy’sがコスト削減のために国内の100店舗を閉鎖することを発表したのだ。Macy’sは今後、e-コマースや観光客を狙った販売チャネルを強化していく方針で、同社からすると出店チャネル自体が激減した格好となったのだ。

リアル店舗の減少は一般に脅威と思われがちだが、エスティローダーのCEOファブリツィオ・フリーダ氏は、この変化を機会と捉えていたことを明言している。というのもエスティローダーは、BeccaやToo Facedといったミレニアル世代向けのブランドを買収していた。ある意味、百貨店販売は予測できた未来だったのである。ミレニアル世代とは、2000年代に社会人になった世代のことであり、物心ついた頃からインターネットがある社会で生活しておりデジタルネイティブである。彼らにとってはインターネットの存在は当たり前であり、Amazonの様なe-コマースで商品購入することも、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションも新しい体験ではない。

ミレニアル世代にリーチするためには、店舗よりも有効なマーケティング手法がある。その代表例のひとつがInstagramである。Instagramは2010年に公開された画像系のソーシャルネットワークだが、2017年時点で全世界に8億人のユーザーがいる。特徴的なのはそのユーザーの実に約半数が20〜30代のユーザーだということ。エスティローダーが買収したToo Facedは、Instagramにおいて950万人ものフォロワーを集めており、Too Faced のブランドアイコンは、そのフォロワーにダイレクトに伝えることができる。

ミレニアル世代向けブランドTHE ESTEE EDIT の撤退

エスティローダーはミレニアル世代向けブランドとして買収以外に自社開発したブランドがある。それがTHE ESTEE EDIT(エスティエディット)である。このブランドは2016年にミレニアル世代をターゲットにしていたが、発表後、1年ほどで撤退することを発表し、業界で大きな話題となった。なぜ同社はこんなに短い期間で撤退を決定したのだろうか。

THE ESTEE EDITは、コスメショップSephoraとネット販売を中心に展開していたが、発表によると初年度売上が、当初目標に到達しなったと言う。逆にBeccaやToo Facedといった買収したブランドは、先述のソーシャルメディアによるプロモーション戦略によって、多くのファンからの支持を得ていた。そのため、同社がミレニアル世代のカニバリゼーション(顧客の取り合い)リスクを考える、選択と集中を意思決定したとみられている。

ミレニアル世代のマーケティング戦略

日本ではミレニアル世代は人口構成の約2割だが、世界に目を向けてみると、2020年には、ミレニアル世代が全世界労働人口の3割以上を占めると言われており、消費ボリュームだけでなく、世界的に様々なサービス利用に大きな影響を及ぼすため、ミレニアル世代のマーケティングやリクルートメントは企業の関心事の一つとなっている。

ではTHE ESTEE EDITと、BeccaやToo Facedでは何が違ったのだろうか。筆者が推察するに、THE ESTEE EDITはデジタルマーケティング【も】上手く使いマーケティングをしようとしたのに対して、BeccaやToo Facedはデジタルを中心にマーケティングしたことに違いがある。デジタルネイティブの対義語として、インターネットが後からやってきた世代のことをデジタルイミグラント(デジタル移民世代)と呼ぶ。

  • THE ESTEE EDIT:デジタルイミグラントによるマーケティング戦略
  • BeccaやToo Faced:デジタルネイティブによるマーケティング戦略

こういう解釈ができる。本来ブランドとは消費者との関係を時間かけて育てていくものであるが、わずか1年で撤退した異例の意思決定の裏には、「根本的な戦略の間違い」に起因している可能性があると筆者は見ている。また、この判断を単なる集中と選択と見るべきか、それともミレニアル世代向けブランド開発は、創業70年のデジタルイミグラント企業では非常に難しく、アプローチ自体を見直すべきと言う判断だったと見るべきか、それは今後の取り組みによって明らかになるだろう。

まとめ

1年でのブランド撤退というのは非常に稀なケースだ。それほどまでにデジタルマーケティング戦略の重要性を気づかせてくれる発表となった。米トイザらスが2017年に破綻したのは記憶に新しいが、その要因の一つにAmazonの玩具部門の好調があるとされている。今回の事例からも分かるように、今後の販売チャネルは実店舗よりもオンライン取引の割合が主流となるだろう。また近年のデジタル社会に適用したミレニアル世代の需要を取り込むには、Instagramなどを中心としたソーシャルメディアによるプロモーションが効果的といえる。

無論、Instagramがいつまでも最適なマーケティングであるとは限らない。特に若い世代のトレンドの移り変わりは激しいため、ミレニアル世代をターゲットとするマーケッターは常にそのトレンドにアンテナをはり、時代に応じた最適なマーケティングを行う必要がある。

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この記事の監修者

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株式会社フィンチジャパン 代表取締役

高橋 広嗣

早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。

出版

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法

PR Times記事

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>

ZUU online記事

https://zuuonline.com/authors/d7013a35

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