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新規事業の成功例と押さえておきたいイノベーションのジレンマの考え方

                   
プロセス
公開日:2019.08.01更新日:2023年4月20日

社会や企業の発展に新規事業などの「イノベーション」は欠かせない。
カセットからCDへ、そしてシリコンオーディオへ。
こうした技術革新は、今まで世になかった新しい体験をユーザーに提供し、ユーザーに受け入れられた体験を提供した企業は大きな利益を得る。
それがイノベーションの最大のベネフィットと言えるだろう。

しかし実際にはプラスの面ばかりではなく、マイナス面もある。
すなわち「イノベーションのジレンマ」について理解しておくことが、今後のビジネスの展開において肝要だ。

そこで今回はイノベーションのジレンマについて、事例を交えてわかりやすく紹介し、実際に企業が行った解決策を説明しよう。

 

企業にとって新規事業が必要となる理由

今や、グローバリゼーションやデジタル技術革新が進み、企業はユーザーへより快適で新しい体験を提供しようと努力している。
ユーザーに受け入れられ、より多くの収益を得て企業が成長するためには、イノベーションが欠かせない。

しかし、既存事業に関するイノベーションに注力するあまり、顧客の本質的な需要や好みの変化に気づけず、異質の技術革新によって誕生した新興企業に敗北するケースも見られる。
この現象は「イノベーションのジレンマ」と呼ばれ、1997年にクレイトン・クリステンセンが提唱した企業経営理論の一つである。

企業が既存顧客のニーズを満たすため、自社商品やサービスの改良に努めるのは当然のことだ。
しかし、時代の変化は目まぐるしく、予想外のイノベーションが既存事業を脅かすリスクが潜んでいる。
つまり、時代の変化に気づいて柔軟に対応できなければ、イノベーションのジレンマが起きてしまうのだ。

そのため、目の前の技術や事業だけにこだわるのではなく、常にトレンドにアンテナを張り、必要な時には新規事業に乗り出せる準備をしておくことが重要だ。

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イノベーションのジレンマ事例

イノベーションのジレンマの事例として、スマートフォンカメラの登場が挙げられる。

フィルムを必要とするアナログカメラは、これまで幾度となく新製品登場による逆境を乗り越えてきた。
例えば、携帯電話のカメラ機能が誕生した際は、まだ写真の画質が高くなかったため、カメラとしての技術力で優位に立って棲み分けることが可能だった。
しかし、スマートフォンカメラが登場した現代では対抗手段が見つからず撤退を迫られた企業も多い。

写真の画質は格段に向上し、SNSの普及とともにスマートフォンカメラで気軽に撮影する時代が到来したことで、アナログカメラメーカーは市場での存在意義が見出されず、デジタルカメラ市場も品質が高まるスマートフォンカメラに市場を取られてしまい、多くの製品がラインナップを少なくしている。
カメラを持ち運び、写真や動画を編集して気軽にインターネット上に上げるという、顧客のライフスタイルやニーズの変化に気づき、新規事業に乗り切れるかどうかがターニングポイントであった。

デジタルカメラとスマートフォンカメラはイノベーションのジレンマ構造にあるが、この構造になることで瞬時に市場が切り替わるわけでは無いこともポイントになる。
徐々に時間をかけてしかし着実に市場構造が変わっていく。だからこそ会社全体で変化する市場に対応していく必要があると言える。

最近では、内燃機関の自動車と電気自動車はイノベーションのジレンマ構造にある。
いずれは電気自動車に切り替わっていくが、それは数年で起きるものではない。
だからこそ各社自動車メーカーは、その変化に対応しながら既存事業と新規事業を進めている。

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新規事業の5つの成功例

イノベーションのジレンマの危機は常に潜んでいるものの、時代や顧客ニーズの変化に沿った新規事業で成功を収めた事例も多い。
以下で、企業の新規事業の成功例を見ていこう。

成功例①BIPROGYの「MyHomeMarket」

2018年、同社はバーチャル住宅展示場プラットフォーム「MyHomeMarket」をリリースした。
住宅業界は住宅展示場による集客に限界を迎えており、ミレニアル世代とのコンタクトポイントをどう作るかについて経営課題を抱いていた。
MyHomeMarketはスマホで新築購入の各種シミュレーションは高精細のVR技術が実装されており、住宅購入検討の際、臨場感を持って行うことができる。

新型コロナウイルス感染流行の際は、ますます住宅展示場の集客力が下がったことにより多くの住宅メーカーの課題解決に貢献している。

成功例②日立の「Lumada」

2016年、株式会社日立製作所は、IoTプラットフォーム「Lumada」をリリースした。
AIや各種シミュレーターなどのIT技術が集まっており、企業は自社を取り巻くデータを統合・分析・検証できるというものだ。
業務の複雑化やDX推進の流れに即したサービスであり、従来の日立の高効率生産モデルが活かされている。現在ではグローバル市場で展開中だ。

成功例③日本郵政とYper株式会社の「OKIPPA」

日本郵政と物流系ITスタートアップのYper株式会社は、不在時受け取りサービス「OKIPPA」をリリースした。
不在時に玄関に専用バッグを吊り下げておくことで、荷物の受け取りができるというものだ。
共働き世帯や単身世帯の増加などライフスタイルの多様化によって、再配達が増加傾向にある中、新たな物流スタイル「置き配」が注目され始めた。

指定の場所に荷物を置いて完了する置き配では、顧客の荷物待ちや再配達手続きのストレスを緩和するほか、配達員の負担も軽減できる。
「OKIPPA」で使用する専用バッグは折りたたみ式で、宅配ボックスよりも安価で購入しやすい点で差別化に成功した。

また、東京都杉並区で行われた実験では、実際に再配達の61%減少が確認されており、人手不足が深刻な物流業界において今後も需要が高いと予想される。

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成功例④KIYOラーニングの「AirCourse」

2017年、社会人向け教育コンテンツ事業を展開するKIYOラーニング株式会社は、クラウド型eラーニングシステム「AirCourse」をリリースした。
コンプライアンスやExcel・Wordなどの汎用的サービスの動画研修をはじめ、自社オリジナルコースの作成、組織単位での学習管理などが可能だ。
資格取得のeラーニングシステム「通勤講座」のノウハウを存分に活かした新規事業である。

成功例⑤ASHBERYの「KAREN」

2019年、株式会社ASHBERYは、顧客の好みやライフスタイルに合ったインテリアコーディネートを提案する、オンライン型サービス「KAREN」をリリースした。
部屋の間取り図や写真をもとに、プロのコーディネーターが提案するインテリアを3Dイメージで確認できる。
また、イメージ内の家具はそのままECサイトで購入可能だ。
創業者の実体験から生まれた、デジタル技術を駆使した、部屋づくりの悩みに沿うサービスだ。

成功例⑥Takeofferの「しつじむ」

2018年、会計・税務業務を支援する株式会社Takeofferは、確定申告支援サービス「しつじむ」をリリースした。
LINEを通じた情報入力や写真提出のみで、税理士が書類作成や税務署への申告を代理で行ってくれるというものだ。また、納付税額はサービス利用料とともに支払える。
副業や個人事業主の増加に伴う確定申告の需要や、働き方改革などに応じた、注目度の高いサービスである。

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新規事業が成功する企業の共通点

新規事業の成功例に共通するポイントは以下の通りである。

共通点①人材の採用・育成に注力している

積極的に人材の採用と育成を行っている企業は、新規事業も成功に導きやすい。
メンバーがチーム内での自分の役割を認識し、共通意識を持ちながら働きやすい環境を作ることが重要だ。

共通点②迅速にPDCAを回す仕組みがある

新規事業を立ち上げる際は、スピーディにPDCAを回す仕組みが必要だ。
事業はスモールスタートを切り、市場からの反応を見つつ、フィードバックを迅速に回収・検証することで、事業を効果的に改善し短期間で成長させていける。

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共通点③ターゲットが具体的である

明確なターゲットを設定することは、新規事業の成功に欠かせない。
ターゲットが具体的であるほど、競合の少ないブルーオーシャンを見つけやすくなる。

共通点④システム化志向である

企画・生産・販売・運営管理など、あらゆる分野でのシステム化を意識することで、効率的なパフォーマンスを実現できる。
たとえ成熟市場へ新規参入する場合でも、システム化されたビジネスモデルで挑めば、他者との差別化により優位に立てる可能性が高まるだろう。

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新規事業が失敗する企業の共通点

新規事業が失敗する企業の共通点は、次の5つである。

  • 仮説検証に時間がかかる
  • ビジネスモデルの検討が不十分である
  • 人材リソースが不足している
  • 撤退基準を定めていない
  • 新たな人材への教育が行き届いていない

新規事業の失敗にはどのような要因が潜んでいるのか。
新規事業が失敗してしまう根本的課題についてもくわしく紹介する。

仮説検証に時間がかかる

大企業ほど意思決定が終着するまでのフローが長く、机上での議論に多くの時間を割がざるを得ない傾向がある。
仮説検証の段階で多大な時間を要する場合、最新の市場動向に対する適切なアクションを起こすことが難しい。
最初から壮大な仮説を検討するのではなく、フェーズを分けて段階的に検証を行っていくと良い。
身の周りから実践可能な物事に目を向け、その過程で消費者のニーズを探りながら需要を満たすかたちで市場のなかでの大きなサイクルを生み出していくことが重要である。

ビジネスモデルの検討が不十分である

事業失敗の多くは需要予測や市場・ターゲットに関する把握不足で起こる。
思いつきでの行動はときに斬新なアイデアを創出するため必ずしも切り捨てるべきものではないが、楽観的な需要予測に基づいた事業の実践は、軌道に乗れなかった場合に適切に対処できなくなる危険がある。
たとえ高性能な製品・サービスであっても、ユーザーが必要としない内容であれば購入成績を伸ばすことは難しい。
また、ビジネスモデルの検討が十分にできていないと、事業発足当時に目標とされた事業の軸が揺らぎ、目指すべき方向性が不明瞭なまま曖昧な理解で事業が進行する恐れがある。
事業を企画する段階でビジネスモデルのあり方を十分に検討し、事業を実現させることができる座組を構築しながら、目指すべき目標に対して事業内容が適切かどうかを判断する必要がある。

人材リソースが不足している

大企業では新規事業立ち上げの際、関連部署の事業部から人員を導入することが多く、本来の業務とは異なる兼任の仕事として新規事業に関する業務遂行を行う必要がある。
このことは社員に対する負担の大きさから事業の本来の目的から軸足が逸れやすく、革新的アイデアの創出は難しくなる。
余裕をもって人材配置を行うことで、個々人の負担を軽減できるほか、事業のあるべき姿を見据えた計画的な事業計画・実行が可能になるメリットがある。

撤退基準を定めていない

たとえ新規事業に失敗した場合でも、企業が儲けを得ているうちに自ら撤退する「接客的撤退」のほうがダメージが少ない。
利益が上昇傾向にあり事業が成長過程を築いている途中であっても、事業領域の最適化を図るために事業を手放したり、衰退が見られない段階で事業撤退を選んだりする方法のほうが、有終の美を飾れるだろう。

新たな人材への教育が行き届いていない

新規事業の立ち上げには未経験の人材が投入されることも少なくない。
持続可能な人材配置を行っていくためには、そうしたスキル・経験の拙い社員に対し熟練したメソッド・ノウハウを教育し、自ら業務に携わっていける人材に育成することが必要である。
未経験者に実践的スキルと実用的な知識を蓄積させることで、自らアクションを起こせる実践性の高い人材が育つだろう。
人材育成のフローが整えば、人材育成の時間・機会を度々設ける必要なく自動的に新人教育のマニュアルが整備されていく。
立ち上げの段階で未経験者が知識やスキルを学べる環境を整え、その後は自発的に新たな人材が学びを深められるようなシステム構築を行うことで、円滑に教育・育成業務が進んでいくだろう。

新規事業を成功させるための方法

最後に、新規事業を成功させるための方法を確認しよう。

小規模でのトライアンドエラー

小規模でトライアンドエラーを繰り返せば、リスクを抑えつつ様々な知見を得やすい。
既存事業の枠組みにとらわれず、視野を広く持つことで、新しいイノベーションを生み出せる。

フラットな視点で社会全体を眺める

事業を長いスパンで成功させるためには、時の流れやそれに付随するユーザーニーズの変化を見逃してはいけない。
常に流行にアンテナを張りながら、フラットな思考で社会全体を捉えることが重要だ。

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まとめ

イノベーションのジレンマを避けるためには、既存事業だけにこだわらず、トレンドや顧客ニーズの変化に応じた新規事業が必要である。
人材育成や迅速なビジネスサイクル、ターゲットの具体化や社内のシステム化に取り組む企業は、新規事業でも成功を収めやすい。新規事業に取り掛かる際は、小規模でのトライアンドエラーと、フラットな視点が重要だ。

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この記事の監修者

監修者の写真

株式会社フィンチジャパン 代表取締役

高橋 広嗣

早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。

出版

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法

PR Times記事

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>

ZUU online記事

https://zuuonline.com/authors/d7013a35

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