事業計画書の書き方:融資を受けるための4つのポイント
公開日:2023.03.31更新日:2024年9月24日
事業を立ち上げるにしても、新規事業のために会社を設立するにしても、資金が必要だ。
資金を調達するために欠かせない提出書類の1つに「事業計画書」がある。この書類がどのようなものなのか、また書き方がわからずにお困りの方もいるのではないだろうか。
そこで本記事では、以下の3つの要素について解説する。
- 事業計画書の概要の説明
- 事業計画書を作成する目的
- 事業計画書を作成する4つのメリット
- 書類に記載する8つの項目
- 作成時の書き方で押さえておきたい4つのポイント
事業計画書とは
自社で提供するサービス内容や事業戦略、収益の見込みなどを記載した書類のことを「事業計画書」という。
わかりやすくいえば「新規事業をスタート、または既存事業を運用するにあたって、どのように収益をあげるのか」を記した報告書のようなものだ。
事業計画書の作成は義務ではなく、書類を作成しない、あるいは作成した書類を従業員に共有しなくとも特に罰則はない。
しかし、作成することで、具体的な数値やデータをもとに、事業の展望や方針が適切かどうかを判断できるようになる。
また、事業がうまくいかないときに、プロのアドバイザーに相談する場合にも、事業計画書は役立つ。
口頭だけでは共有が難しい事項があったとしても、作成した書類を共有するだけで、担当者にビジネスの全体像をスムーズに伝えられるからだ。
事業計画書の完成度によって、事業の成否が分かれるといっても過言ではないだろう。
事業計画書を作成する目的
事業計画書を作成する目的は2つある。
ひとつは「金融機関や投資家からの融資を受けるため」、そして「事業の改善を図るため」だ。
金融機関や投資家から融資を受ける場合において、事業計画書の作成は必要不可欠だ。
なぜ、資金調達のために事業計画書が必要であるかというと、融資元から信頼の獲得に関係するからである。
前提として、金融機関から融資を受けるには、決算書や月次資金繰り表などを提出したうえで「事業が安定していく」「将来性が期待できる」と評価・判断されなければならない。
そのため、決算が好転の見通しなく赤字続きだったり、業績が低迷している状態が続いたりすれば、当然のことながら金融機関から信用を得られず、融資を受けることは困難を極める。
しかし、このような場合でも、事業計画書に数値やデータを記載し、事業に黒字化の可能性があることや、返済能力があることをアピールできれば、融資を受けられる可能性がある。
融資審査の成功確率を高めるためにも、事業計画書は重要なのだ。
また、精度の高い事業計画書を作成すれば、事業の課題点や問題点を洗い出し、解決策を見つけ出せるようになる。
つまり、業務がうまくいかなくなった場合でも、迅速かつ適切に対処できるようになるので、事業経営におけるリスクを減らすことにつながるというわけだ。
事業計画書を作成するメリット
ここからは、事業計画書を作成することにより享受できるメリットを紹介する。
メリット①事業の構造を理解できる
事業計画書には、売上目標やマーケティング方法はもちろんだが、他社との差別化ポイントや市場規模、事業を軌道に乗せるための資金の使い方なども記載する。
これらの情報を整理すれば、事業の構造や業界の仕組みなどの理解に役立つ。
メリット②競合他社を理解できる
競合他社との差別化や競合の優位性をアピールするためには、市場の動向を分析しなければならない。
事業計画書に競合他社の情報をまとめれば、自社ならびに自社で提供しているサービスに不足しているものを理解できるので、具体的な対抗策を講じられるようになる。
メリット③ユーザーを理解できる
事業計画書を作成するには、顧客分析も必須である。
どのようなユーザー層に、どういったサービスを提供するのかを明確にすれば、具体的なマーケティング手法を考え出せる。
ユーザーの立場を意識した事業計画書を作成できれば、商品・サービスの品質を高められるので、より高い費用対効果を得られるだろう。
メリット④事業の方向性を従業員とともに確認できる
会社を設立して、従業員を雇用するときにも事業計画書は効果を発揮する。
事業計画書に記載されている、ビジネスモデルや今後の展望、目標達成の方法などを従業員に共有すれば、事業の方向性を見失わず足並みを揃えられる。
従業員のモチベーションを維持して、売り上げの向上につなげられるという側面があることも、事業計画書を作成するメリットの1つだといえる。
事業計画書の項目と書き方
ここからは、事業計画書に記載したい項目ごとの概要と書き方を紹介する。
項目①事業目的
事業目的とは、「どのような事業をしているのか」「事業を通じて社会にどのように貢献するのか」などを記載する、いわば企業としての活動方針のことである。
意気込みなどを細部まで記載する必要はないが、概要だけでなく、事項を読み進めるうえで必要な知識が簡潔に記載されていることが望ましい。
たとえば、マッサージ店を経営している、あるいは開業する人がいるとする。
この場合「事業としてマッサージをする」ではなく「事業としてマッサージを実施。施術を通じて人々の英気を養う」といった趣旨で記載されていれば、なおよい。
項目②会社の概要・創業者の経歴
会社名や所在地、代表取締役や設立年などの、会社の概要も記載する。
なお、法人登記するのであれば、株主構成や従業員数なども列挙する。
可能であれば、創業者の経歴や、保有している資格など、アピールポイントをまとめる。
創業者の経験や能力は業績に直結することがあるので、強みを記載すれば、売り上げの向上にも効果が期待できるだろう。
なお、アピールポイントを記載する際は、「体力がある」「約束を守る」などの抽象的な表記は避け、具体性を持たせたほうがよい。
「司法書士の資格を保有している」「アメリカの銀行で20年間勤務していた」など、個人の強みがわかるような経歴を書くことが望ましい。
創業者の経歴が高く評価されれば、融資を受ける際の審査も有利にはたらくだろう。
項目③自社の商品・サービスの強み
前提として、自社で提供する商品・サービスは、ユーザーのニーズを満たすものでなければならない。
どのような商品・サービスを提供しているのか、メリットや強みが何かを記載する。
この際に、競合他社と比較したときの特長や、ターゲットとしているユーザー層なども表記されているのが望ましい。
なお、ターゲットとして想定しているユーザー層の情報は明確化する。
ターゲットが狭い、つまり一部の限られたユーザーのニーズしか満たせないと、金融機関から事業のモデルや返済能力を不安視され、融資の審査で不利になる可能性があるからだ。
ユーザーの性別や年齢層、エリアはもちろんだが、興味関心や家族構成などまで設定できれば、より強い説得力を持たせられる。
項目④販売戦略
自社の商品・サービスを販売するための、手段やコストをまとめた計画が販売戦略である。
たとえば、飲食店であれば、料理を提供するためには調理をしなければならない。
そして、食材の調達や食品の加工、調理器具の準備、ほかにも広告宣伝費やテナント代なども発生する。
これらのコストを正確に分析し、そのうえで売上予想との損益分岐点を明確にすれば、書類の精度を高められる。
項目⑤生産方法
事業として商品を販売するのであれば、その商品を生産・調達する方法も記載する。
事業の売り上げが多くとも、生産方法が安定しない、もしくは商品の希少価値が高いと、金融機関から「事業の安定性に欠ける」と判断され、審査に落とされることもあるためだ。
自社で商品を生産するのであれば生産数量や製造原価を、メーカーから商品を仕入れるのであれば、仕入価格や数量などを記載する。
項目⑥社内体制
従業員を率いて起業するのであれば、役割決定や意思決定の流れを示すために、社内・組織の体制も記載する。
役割を明確にして、役職ごとにどのような人材がいるのかを記載すれば、仕事の効率、ひいては売り上げの向上にも効果が期待できるだろう。
また、将来的に従業員の雇用を視野に入れているのであれば、人員計画にも触れたほうがよい。
人員確保に取り組み、雇用が実現すれば、社会的要請に応えることにもつながるからだ。
項目⑦年次損益計画・月次損益計画
目標を立てたうえで事業に取り組むと、売上高がどのくらいあり、利益がどのくらい得られるのかを示す計画を、年次損益計画・月次損益計画という。
設定した目標を実現するために施策を講じた結果、どの指標に、どのような影響を与えるのかを記載する。
つまり、貸借対照表計画やキャッシュ・フロー計画だけでなく、財務目標数値や長期資金計画表まで含めたうえでの作成が求められる。
目標を立てるときは、まずは月次損益計画を作成し、それを連続させて年間の予想につなげていき、年次損益計画を完成させる。
なお、月次損益計画の数値は一定ではなく、繁忙期・閑散期などを想定したうえでの目標を立てることが望ましい。
項目⑧返済計画など
融資を受けたお金を、いつまでに、どのような計画で返済するのかをまとめた項目が返済計画である。
金融機関や投資家には、事業の方向性や事業進捗、融資を受けたお金の使い道などを共有しなければならない。
「融資したお金を有効に使えなかった」「事業の方向性を誤って、売り上げが低迷している」といった事態に発展すれば、追加の融資を断られる可能性もある。
また、事業の売り上げが高く、業績が安定していても、返済計画が適切に記載されていない場合も同様である。
したがって、返済計画を立てる際は、金融機関や投資家を安心させられるように、説得力を持たせることが重要である。
抽象的な表現は避けて、年次損益計画や月次損益計画などをもとに、具体的な数値やデータを記載しなければならない。
また、将来的に事業の拡大を検討しており、さらなる資金の調達を視野に入れるのであれば、融資の借り換えや、追加融資などの計画も盛り込んで記載することが望ましい。
融資を受けるために事業計画書の書き方で押さえておきたい8つのポイント
ここまで、起業や事業の運用にあたり融資を受けるには、事業計画書の内容を充実させることがいかに重要であるのかを解説した。
しかし、事業計画書の項目を漏れなく作成したからといって、必ずしも金融機関や投資家から融資を受けられるとは限らない。
どれだけ品質に優れる商品や、高い利回りが期待できるサービスを提供していても、事業計画書に書かれている内容に根拠や説得力がなければ、作成・提出する意味がない。
ここからは、金融機関から融資を受けるために、事業計画書の作成時に押さえておきたいポイントを紹介する。
ポイント①経営理念に注力する
「何のために事業を始めるのか」「社会にどのような恩恵をもたらしたいのか」など、経営者の信念や考えにもとづく、企業の根本となる活動方針が経営理念である。
当然のことながら、企業ごとに経営理念は異なるので「この考えが正しい」という明確な答えは存在しない。
この経営理念は、販売戦略や損益計画などと比較すると、抽象的かつ感情的な要素が多く含まれている。
そのため、「融資の審査において、そこまで重要視される項目ではないだろう」という考えから、そこまで注力せずに書こうと考えている方もいるのではないだろうか。
しかし、この考えは誤りである。
融資の審査の際に、融資担当者はこの経営理念も確認する。
たとえ自社の商品・サービスの強みや損益計画などが記載されていても、経営理念に社会通念に反することなどが書かれていれば、当然のことながら審査には通過しない。
経営理念は、いわば企業のルールやモットーのようなものであり、同時に経営者の信頼性を推し量る項目でもある。
融資担当者に熱意を伝えられるように、商品・サービスを通して、社会にどのように貢献したいのかを盛り込むことが、審査に通過するためには重要である。
ポイント②実現できる目標を設定する
金融機関の融資担当者は、融資先の企業がどのような計画で事業を進めるのか、そしてどうやって利益をあげられるのかを重視する。
当然のことながら、事業計画の内容が破綻しており、利益を出すことが現実的ではないと判断された場合には、審査には通過しない。
そのため、事業計画書に記載する目標は、具体的な数値やデータを用いて、現実的に達成可能だと思えるものを設定する。
ただし、期待できる売り上げや、目標として掲げている数値を記載するだけでは、内容としては不十分であり、説得力にも欠ける。
目標を提示したうえで、直面している課題にはどのようなものがあるのか、そしてその課題をどのように解決するのかを示さなければ、融資担当者の信用は得られないだろう。
また、どうしても融資を受けたいと思うあまり、高すぎる目標を設定してはならない。
たとえば、赤字経営が続いている会社があるとする。
このような場合に「来年は黒字化させる」「前年度から売り上げを30%アップさせる」という計画を伝えても、融資担当者からの不信感を買うだけである。
たとえ、実現不可能な目標を提示して融資を得られたとしても、その計画自体が破綻しているので、経営回復することはまずない。
なお、融資の審査を有利にするために、決算書や月次資金繰り表、事業計画書に事実と異なる数値やデータを記載すると、詐欺罪に問われる可能性もある。
決算が赤字でも、その旨を伝えたうえで「ここからこのような施策を講じて経営回復を目指す」といった、具体的な打開策や解決策を共有することが大切なのだ。
適切な目標を設定するためには
「設定する目標の基準がわからない」と悩んでいる方は、まずは現場の声に耳を傾けるとよい。
たとえば、毎月テレアポを10件獲得している会社があるとする。
この会社が「従業員数や稼働時間はそのままで、コール数を増やして、毎月アポイントを20件獲得する」という目標を設定することは非現実的だ。
人的・時間的リソースや架電リストは有限なので、コール数を増やしたからといって、アポイントの数まで増えることには直結しないからである。
このような場合は、経営者が独断で目標を設定するのではなく、部署の責任者の声に耳を傾けることが望ましい。
「人的リソースを解消すれば、アポイント数も増えるのか」「架電リストやトークを変えれば、アポイント率は改善されるか」など、現場の状態や課題を入念にヒアリングする。
そのうえで、経営者と従業員の双方が「この計画・数値であれば、達成できるだろう」と思えるような目標を設定するとよい。
ポイント③理解しやすくまとめる
融資の審査に通過するには、事業計画書に書かれている内容が具体的かつ正確であることが重要だ。
融資担当者がスムーズに理解できるように、要点が押さえられており、理解しやすくまとめられているとよい。
たとえば、業界特有の専門用語が頻出している、もしくは大量の数字が羅列されている計画書では、内容がわかりにくいだけでなく、アピールポイントもぼやけてしまう。
そのため、専門用語はなるべく噛み砕いた表現に変更し、数字を使用する際は、グラフなどを用いて可読性を向上させる。
また、自社の魅力や情報を伝えたいと思うあまり、情報を盛り込みすぎて、ボリュームが膨大になることも起こりえる。
計画書自体が読みやすくても、読み終えるまでに時間がかかると、かえってアピールポイントが伝わりにくくなる。
内容は読みやすく、なおかつ10~15分程度で読みきれるボリュームが望ましい。
ポイント④熱意を伝える
企業の将来性や返済能力だけでなく、経営者の人間性や事業に対する姿勢、経営方針や従業員の教育なども、融資の判断材料となりえる。
企業に将来性があっても「事業に対して真摯に向き合っていない」「従業員への教育がずさんである」と判断されたら、融資審査では不利になってしまう。
融資審査に通過するには、仕事に対して情熱を持って取り組む姿勢や、コンプライアンスを遵守する誠実な態度を伝えることも重要である。
融資担当者に熱意を伝えるためにも、テンプレート的な文章・構成ではなく、自身の考えを事業計画書に反映させることが望ましい。
融資を受けるためには事業計画書の書き方を押さえることが重要である
事業計画書の作成は、金融機関から融資を受ける際に必要なだけでなく、事業の構造や競合他社の理解を深め、業務内容の改善につなげることにも役立つ。
事業計画書に記載する項目は、事業目的や会社の概要、損益計画や返済計画など、実にさまざまだ。
項目数が多いので作成に時間がかかるが、適切に記載しないと、金融機関から「事業の将来性が期待できない」「返済能力がない」と判断され、審査に落とされてしまう可能性がある。
実現可能な目標を設定することや、内容をわかりやすく簡潔にまとめることにより、審査に通過する確率は高まる。
事業を円滑に進めるために融資を受けたいのであれば、事業計画書は入念に作成しよう。
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この記事の監修者
株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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