デプスインタビューのやり方|本音を引き出すために必要な3つのポイント
公開日:2018.04.29更新日:2019年9月25日
定性調査を行う際に、デプスインタビューを利用する企業が増えている。
代表的な定性調査手法である「グループインタビュー」は聞きたいことを効率的かつ具体的に引き出すことができる上に、対象者の価値観やライフスタイルを含めたペルソナの全体像を把握することができるからだ。
しかし、1対1のインタビューで本音を聞き出すということは一見すると特別なスキルが必要なのではないかと身構える担当者も多い。
本記事では、デプスインタビューの具体的な実施方法をはじめ、経験の浅いデプスインタビュアー(モデレーター)を対象として、デプスインタビューを成功に導くために必要な3つのポイントとやり方について解説する。
ぜひ、実際にデプスインタビューを行うときに参考にしてほしい。
デプスインタビューとは何か
まず、前提として定量調査と定性調査について簡単に説明したい。
新規事業や商品開発では、利用者を想定した事前調査が欠かせない。事前調査は大きく分けて2種類ある。
- 定量調査:アンケートなどを用いて、データを数字で集める
- 定性調査:どのようなニーズや問題があるかなどの対象者の具体的な意思や考えなどを探る
デプスインタビューは、この後者の「定性調査」にあたり、利用者の声を引き出す係を担うモデレーターとの1対1のインタビュー形式を用いて行う。
デプスインタビューは1対1の対話
デプスインタビューは、対象者の深層心理を深掘りして、より潜在的なニーズを行き出す方法である。つまり、うまくいけば、当初想定していなかった潜在的なニーズやそのヒントを手に入れることができる。
ただし、デプスインタビューは、あくまで対面でのインタビューである。成功させるためには、対象者の考えていることを言葉にして引き出すこと、つまりモデレーターの力量が大切になってくる。
ではどのようにデプスインタビューを準備し実施すれば良いのだろうか。まず、インタビューを行う前に5つのことを決めなければならない。
デプスインタビューを実施するために決める5つのこと
デプスインタビューを行う場合、一般的に以下の5つのことを選定する。
- 対象者
- 人数とコスト
- 場所と手段
- インタビューの時間と質問内容
- 質問項目とインタビューフローの設計
1.対象者の選定
まず、どのような属性をインタビュー対象とするのかを決める。
多くの場合、対象者は商品のターゲット層と同じ属性になる。しかし、「本当にそのターゲット層が正しいのかどうか」という検討が必要な場合は、比較分析がしやすい様に比較対象を加える。
例えば、炭酸飲料を頻繁に飲むユーザーの潜在的なニーズを把握するために、炭酸飲料をまったく飲まないユーザーも対象者に加えるといった方法である。
2.人数とコスト
対象者が決まったら次はその人数を決定する。
具体的な人数は、商品の販売数によって変わるので一概にはいえないが、グループインタビューで【5名×4グループ=合計20名】で実施する場合を想定しよう。
デプスインタビューはグループ数を大きく変えずに、【3名×4グループ=合計12名】といった風に設計すると良い。
デプスインタビューでは、同じグループ(属性)を複数人行うと、「大体同じ様なことを言っている」という様にそのグループ全体の特徴として理解できることがある。その人数が、対象グループの上限値の目安になるだろう。
コストとパフォーマンスのバランスを考える
インタビューにはそれを行う人数分の人件費はもちろん、インタビュー後のデータ化にもコストがかかる。そのため、予算と照らし合わせながらどの人数が最低限必要なのか、どれくらい行えば必要な情報が得られるのかよく検討する必要がある。
3.場所と手段
デプスインタビューの場合、深層心理を引き出すのが最大の目的であるため、対象者がリラックスできる場所を選ぶ必要がある。また、インタビューの直接的な回答内容からだけでなく、インタビュー空間から気づきを得ることも多々あるため、場所は対象者の仕事場や自宅などが適当である。
誰が聞くのか、どうやって対象者を集めるのか
さらに、デプスインタビューを行うのは自社のメンバー自ら行うのか、外部委託するのかを考える必要がある。
また、対象はどのように募集するのかも検討が必要だ。外部委託するのか、知り合いに頼むのか、インターネットやSNSなどを通じて募集するのか、など方法は多岐にわたる。
これらは必ずしも外部委託する必要はなく、むしろ内部に客観的に対象者にインタビューを行うトレーニングを積んでいる社員を育てることも重要だろう。
4.インタビューの時間と質問内容
インタビューの時間は、経験者が行う場合、1時間程度で終えることも可能である。ただし、しっかり深掘りしたければ、会話の前後に遊びを設けて、プラス30分ほどのゆとりをとっておいたほうがいい。そのため、対象者あたり1時間半〜2時間程度は確保しておくのが望ましい。
効率化が逆効果になることもある
工数とも関わるが、デプスインタビューはグループインタビューの効率性を落としてでも、より深く対象者から考えを引き出すことが目的であるため、過度に効率化するのは逆効果だ。時間が短いと得られる内容が少なくなるのと同時に対象者との信頼関係が築きにくいので、その点は注意していただきたい。
5.質問項目とインタビューフローの設計
上記の項目が定まったら、対象者にどのような質問を行いたいのか、質問の設定とインタビューフローの設計を行う。デプスインタビューの場合、通常のインタビューと同様に「絶対必要な質問」と「確認しないといけない質問」は必要であるが、あまり決めすぎて形式的な回答になると意味がない。
最低限の項目を定めた後は、個々の質問を指定した時間内でどの様に聞いていくかというインタビュー全体の流れ、つまりインタビューフローの設計を綿密に行う。
デプスインタビューを成功させる3つのポイント
ここまで、実際に調査を行うまでの段取り、そして設計のノウハウを紹介してきた。しかし、「実際に人から話を聞いて、深層心理や本音を探り出すことは難しい」と感じてはいないだろうか。
ここでは、実際のデプスインタビューのなかで使える、本音を引き出すための3つのポイントを紹介しよう。
- 「最初の3分」で自分の情報を開示する
- 「深掘りの言葉」を使わない
- 「誘導」しない
実はこの3つを心がけるだけで、本音を引き出す成功率がぐっと上がるのだ。それでは、ひとつずつ見ていこう。
ポイント①「最初の3分」で自分の情報を開示する
どこの誰ともわからない相手に対して、初めから心を開いて本音を語ることは難しい。
そのため、インタビュー開始時にあなたが行うべきファーストステップは、「最初の3分」で信頼関係を築くことだ。この3分間に信頼関係を素早く築くために、モデレーター自身が「プライベートな情報や感情を開示する」とよい。
例えば笑顔は相手を安心させ、リラックスさせる上で効果絶大である。ただし、過度に笑ったりせずに、口角をあげ微笑むくらいの穏やかな笑顔を浮かべよう。
それに、プライベートな情報を聞く上では、モデレーター自身の話でリードした方が話に入りやすい。数分あなた自身の紹介をするだけで、対象者はインタビューフローの中に導かれるはずだ。
ポイント:相手に興味を示す
また、笑顔や自己紹介と同時に、相手への興味をはっきり示すことも極めて重要だ。
- 「福島県のご出身なのですね。わたしも同じ出身です」
- 「注文住宅ですか? 実は私も新築を建てる計画があるんです」
こうした様に、相手へのリスペクトや興味を持ちつつ、共通項から話し始めるイメージだ。人間は自分に興味を持つ人や自分のことをよく知っている人に好意を持つ。事前に相手との共通項がないか調べ、それを元にしたトークを交えるのも短い期間で信頼関係を構築するのに役に立つ。
ポイント②「深掘りの言葉」を使わない
相手の本音を引き出し、深層心理を知るのに大事なのは『聴き上手になること』である。これは一見難しいことのように見えるかもしれないが、実は簡単なコツがある。
聞き上手になるポイント、それは「対象者の話した内容を繰り返す」ことである。
これはポイント①で紹介した、「相手に興味を持っていることをはっきり示す」「時々穏やかな笑顔を交える」と組み合わせて使うと効果てきめんだ。
対象者「サッカーに興味があるんです」
あなた「サッカーに興味があるんですか〜(上げ調子)」
対象者「そうなんですよ、特に◯◯というチームが好きでして」
あなた「◯◯が好きなんですね~(上げ調子)」
対象者「スタジアムに観に行ったりしますよ」
感覚的には、「相手に教えを請うような姿勢」を持つことがコツとなる。
「Why?(なぜ)」や「How?(どうやって)」を聞くと、対象者が考えてしまう
気をつけてほしいのは、この「対象者の話した内容を繰り返す」というのは、決して対象者の発言を深掘りしようと「どうしてですか?」「具体的にどういうことですか?」という風に、「Why?(なぜ)」や「How?(どうやって)」という設問を繰り返さない、ということである。
「Why?(なぜ)」や「How?(どうやって)」というのは、深掘りをする際に対象者に考えさせてしまうので、発言が顕在的になりがちである。対象者が話すつもりがなかったことを自然と多く話してしまう様にリードするため、あえてこうした深掘りの言葉を使わないのだ。もちろん必ず相手の発言に対してリスペクトする姿勢を忘れないようにしよう。
相手への共感や尊敬の念を込めた相槌
また、相手への共感や尊敬の念を込めた相槌を、自然な形で入れよう。
- 「なるほど、確かにそうですね」
- 「おっしゃる通りです」
- 「わかります」
- 「へえ〜!」などの感嘆詞
- 「〜については初めて知りましたが、参考になります」
- 「(良い意味で)普通はそこまでそうしないですよね」
この相槌も相手への興味を本当に持っているのとないのでは真剣味が異なるので、しっかり相手を本気でリスペクトすることが大切だ。
ポイント③「誘導」しない
インタビューする側としては、聞きたいことに対応した回答となるようにインタビューしてしまいがちだ。しかし、デプスインタビューの場合は誘導して得た質問は無価値なので、そうならないように注意しなればならない。
インタビューされて答えた側も、普段はそれについて深く考えているわけではないことも多い。むしろデプスインタビュー終了後に、「今回、初めて考えました」という感想をいただくことをも少なくない。
そうした本人も気づかない気持ちを整理し、さらにその奥にある深層心理を引き出すためには、一つの質問(方向性)に対して、対象者の話したい流れに委ねて誘導せずに聞き続けるのが良いだろう。
明確なルールは無いが、一質問に対して5分くらいは、対象者に話をし続けて欲しい。これがグループインタビューと異なる点と言える。
デプスインタビューの結果を整理する
デプスインタビューで得た結果はデータ化し、整理分析しないと意味がない。ここでは付箋やカードを用いてグルーピングするKJ法を用いて、得たデータを整理分析する方法について説明しよう。
KJ法の具体的な実施方法
1.内容を小分けにする
インタビューの文字起こしを行い、データ化する。
この作業完了したら、その内容を要素に分けて、付箋紙やカードに記入する。記入したカードや付箋紙はホワイトボードに貼るなどして、全体像を把握できるようにする。
2.似たような内容のものはグルーピングする。
この時、グルーピングできないものは無理にグルーピングせずに単独のグループとして扱う。
3.グルーピングした内容を矢印などで結び、関係性を明確にして、分析する
矢印で結び関係性を明確にしたらいよいよ分析に入る。
- どんなグルーピングが存在するのか
- それはどのような関係性を持つのか
- それらのことからどのようなことが言えるのか
この図から読み取れる情報を整理し、分析する。
デプスインタビューにおける最も大切なこと
デプスインタビューとは何か、どのように利用すればいいのかを、成功するために必要な3つのポイントやKJ法の利用方法を交えながら説明した。
デプスインタビューを成功させるためには、対象者に実際に興味を持ち、質問(方向性)に対して、対象者の話したい流れに委ねて、誘導せずに聞き続けるのが何よりも大切だ。相手へのリスペクトの気持ちを根底に持ち、記事内で説明したポイントに注意しながらインタビューに臨めば、より有意義なデプスインタビューの結果を得ることができるはずだ。
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この記事の監修者
株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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