INTERVIEW
世界インテリジェント・コミュニティトップ21に選出された塩尻市から学ぶ、自治体のICT政策
金子 春雄氏
Haruo Kaneko塩尻市役所 企画政策部 情報政策課長 CTO
小澤 光興氏
Mitsuoki Ozawa塩尻市役所 専門幹
世界インテリジェント・コミュニティトップ21に選出された塩尻市から学ぶ、自治体のICT政策を紹介する。塩尻市のこれまでの取り組みや課題意識、今後の展望について塩尻市役所 企画政策部 情報政策課長CTOの金子春雄氏および、専門幹の小澤光興氏に伺った。
2015世界インテリジェント・コミュニティトップ21に選ばれた理由
―塩尻市は歴史的にそもそもどんな町ですか。
金子氏:塩尻市は古くから交通の要所で、中山道という街道文化が栄えました。南から奈良井宿、贄川宿、塩尻宿、洗馬宿、本山宿があり、塩尻宿は宿屋の数が79あり、東海道に次ぐ日本では二番目の宿場でした。京都から江戸、江戸から京都に向かう人がその時々で情報を置いて行ったのですね。そういった背景から基本的な情報の大切さは古くから受け継がれていると思います。
―塩尻市は歴史的にそもそもどんな町ですか。
金子氏:1996年塩尻インターネットという公営プロパイダーを最初に作りました。その後、UNIX技術やルーティング制御などネットワーク技術の基本を学び、総務省の「マルチメディア街中にぎわい創出事業」で塩尻情報プラザを中心に市内の光ファイバーのネットワーク基盤を作りました。基盤が整備後は無線ネットワークで地域児童見守りのモデル事業に取り組みました。429MHzのアドホック無線ネットワークで、サービスを使う人に7,000~8,000円の端末を買っていただき、それで6年間安全が守られるという事業です。
アドホックネットワークを作ったおかげで、市内中の物のセンサーを集めることが可能となり、土砂崩れに有効な土中水分センサー、水位センサー、傾斜計測センサー、振動センサー、温度・湿度・風光・風速・雨量・放射能、日射量、鳥獣害などのセンサー情報を廉価で容易に集めることができるようになりました。
最近では働き方に着目し、総務省の「ふるさとテレワーク推進事業」でテレワークの事業も取り組んでいます。これはどちらかというと情報基盤ではなく、サービスの部類に入るので、サービス部門あるいはアプリケーションに特化した形で作っていきます。今後は東京から地方に仕事を持ってきて、地方で働くという新しい効率的な働き方を目指していかないと地域は疲弊してしまいます。人口と仕事が東京と大阪に集中してしまう現象を解消しようと国策でやっていますが、なかなか実態として上手くいかないですね。地方に仕事が無いので上手くいかないだけなので、東京から仕事を持ってくる努力をしています。
―ICTを積極的に導入するに至ったきっかけは何でしょうか。
金子氏:昭和電工の様な大きなものづくりの仕事や織機や織物が諏訪を中心に発展し、精密工場で働くことが出来る手先が器用な人が多くなりました。そうするとセンサーや時計から始まり、情報機器を作ることが一般的になりました。今後の進むところはものづくりではなく、事象をつくることです。モノからコトを作ることに社会は流れていると思いますので、時代の変遷としてコト作りやサービスを目指す、という方向に向かっています。
「情報を受け取る側から見れば、もっと物事は簡単に動くと思う」
―どのような形で民間の協力を期待していますか。
金子氏:行政は防災だったら防災という形から入ることが多く、情報を提供する側は防災は防災、広報は広報と業務が分かれ、カテゴリーが分かれているのですが、市民に届く市役所からのお知らせとして情報に偏りがあるのは良くないと思っています。情報を受け取る側の視点で、どう映るか?を考えることが大切だと思います。 行政のガラパゴス状態を解消するには、見る側・受ける側の立場の人をいれないとダメで、その点で市民を含めた民間の協力は不可欠だと思っています。技術は進歩しているので、今は大概のことはできると思います。
一方、民間企業の提案で多いのは技術から入る提案です。あれもこれも出来るようになり、行政側は情報パニックを起こしてしまうので、情報を受け取る側から見れば、もっと物事は簡単に動くと思います。
小澤氏:モノを作って、そのモノをそのまま売りますといった商売の協力は難しいですね。モノありきで、例えば防災に役立ちますよ、というのではなく、受け手側の視点に立ったサービスとして売るような形の協力にならないとパートナーという形にならないので、一緒にやっていくためにはその辺りの視点が必要だと思います。
金子氏:今は世界的に急成長が出来ない状態が継続し、そのなかで効率的に物事を行うには、他人の協力が必要です。行政は大きなサービス産業として存在しますが、行政だけしかできないことがあり、それ以外のサービスをパートナーとして民間に努力いただき実行し、その負担はサービスの対価として行政が払うような、そちらの方が余程効率的だと思います。行政の職員ではコストが高くなるサービスを、効率の良い民間パートナーが実行します。それが人なのか、ロボットなのかは重要ではなく、サービスをやってもらうことが大事だと思っています。目の向ける方向を変えて、低成長で淵まで行って落ちる前に早くジャンプしないといけないですね。行政と民間にそういった舵を取っていただけると、これからの日本は良くなるんじゃないでしょうか。
「情報化は本来の目的に向かうための一つの道具」
―ICT政策で現状抱える課題について教えてください。
小澤氏:分かってもらうことが大事だと思っています。例えば今サイネージを市内中心部に置いていますが(注1)、市民の方々にサイネージがあることが非常に大事だとまだ分かってもらえていないので、分かってもらえるようにすることが必要です。目標に到達する手法として、ICTやIoTがあり、トップランナーは地域に導入することが重要だったのですが、今後はそれではダメだと感じています。これまでは実証実験のなかで「つけました」「見せました」で終わっていたのが、置くことだけではなく、利用する人達向けの努力をすべきだと思っています。誰がするということではなく、関わった人全員が考える必要があると思っています。
―トップランナーの役割が変化してきたのでしょうか。
金子氏:昔はシステムを入れること、ハードウェアを整備することが目標だったんです。実際は、情報化は隠れている道具で、情報化やICTなどの道具を使って達成する「コト」が本来の目的としてあり、本来の目的を見失わないようにしないといけないです。情報化が出来上がると、電話と同じように、情報化は本来の目的に向かうための一つの道具だと気が付きます。
小澤氏:例えば、VRも普及させることが目的になっていて、VRのなかで何を見せて、何を使うとどういうことが出来るか、というところまで行きついていないですね。立体視した映像を見せて、五感に訴えるような映像を見せることが先行していますが、VRは本来そういうものじゃないと思っています。空間位置情報を集約し、その人に正しい情報を伝えることが出来ないとVRの意味が無いです。これはひとの受け売りですけれど、例えば今まではお年寄りの勘でやっていたブドウの剪定に、VRを使うと技術が知見化、データベース化され、若い新しいブドウ栽培をやりたい人が上手にブドウを切り揃えることができる、といったところまでいかないと価値が出ないですね。ICTは入れたら終わりではないです。
「データから政策を考えていかないと行政は動けなくなる」
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(注1)情報通信研究機構(NICT)の委託研究「メッシュ型地域ネットワーク(NerveNet)のプラットフォーム技術の研究開発」において、NerveNetとデジタルサイネージを連携させ、有事の際には災害情報、平時には市のお知らせや天気・時刻情報、イベント情報などを市民向けに配信している。平時・緊急時の両面から情報配信の質・量の向上を図り、その効果を検証している。こんな記事が読みたい!
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