INTERVIEW
瀬戸内海豊島から世界に通用するIoMTのモデル作りに取り組む「瀬戸内カレン」
山口 典男氏
Haruo KanekoPSソリューションズ 事業本部長
日本トップクラスの現代アートの祭典となった 「瀬戸内国際芸術祭」。3年に1度開催されていて今年は3回目となる。2010年、2013年と回を増すごとに観光客数は急増。英語のガイドブックも発刊されており、海外からの訪日観光客も増えている。来場者は瀬戸内の12の島と2つの港が舞台となっている瀬戸内海の島を巡りながら鑑賞する。その芸術祭の舞台となっている島の一つ豊島(てしま)で、PSソリューションズ、ソフトバンク、日本オラクルが、地元と連携しながらIoT搭載のレンタルバイクサービス「瀬戸内カレン」を開始した。事業はPSソリューションズが運営しており、今回は現地での取り組みについて事業本部長である山口氏と店長の暮石氏にお伺いした。
―豊島(てしま)で行っている「瀬戸内カレン」の名前の由来と事業について教えて下さい。
―なぜ、豊島という場所を選んだのですか。
―暮石さんとの出会いが大きいというのはどういうことですか。
―暮石さんに率直にお聞きしたいのですが、なぜ一緒にやろうと思ったのですか?
―貴重な出会いがあって「瀬戸内カレン」が始まったのですね。でもそもそも、なぜPSソリューションズが、レンタルバイクのサービスを展開しているのですか?
一見するとそう思いますよね(笑)
私たちがレンタバイクを手がけている背景には、ソフトバンクの新規事業提案制度から始まった、「誰が、何に、いつ、どこで、どれだけ」充電したかを把握することができるエネルギートランザクションエンジンの「ユビ電」を開発したことにさかのぼります。
今の電気は場所に紐づいてメーター単位で料金を支払うのが常識ですが、「ユビ電」では電気利用を個人単位にしようと発想です。「ユビ電」があれば、どのコンセントから誰のどの端末にどれだけの電気を転送したかがわかりますので、携帯の通話料の様に個人に紐づけて電気も使える様にしようということです。この「ユビ電」という新しい電力供給インフラをどうやって市場に普及させていこうか、というのが私たちのスタートでした。
―その試行錯誤の末、電動スクーターにたどりついた?
手軽に一定量の電気を使い、しかもパーソナルニーズがあるデバイスとなるとスマホやパソコンですが使用電力量が少ないし、電気自動車では多すぎる。今だと電動スクーターが一番しっくりきます。今後はもっと様々な電動モビリティが出てくるでしょうからその時は電動スクーター以外にも選択肢が増えていくでしょうね。
私は、電動スクーターの様に動くものと動かすエネルギーがインターネットにつながる時代をIoTになぞらえてIoMTの時代と呼んでいます。Internet of Moving Thingsの略です。
―IoMT(Internet of Moving Things)。新しい概念ですね。どういう仕組みなのか教えて下さい。
―IoMTによって利用者はどの様な新しい体験ができるのですか。
ブラウザで管理画面を開くと現在位置と電池残量で走行できるエリア(黄色の部分)を確認できる。
電動スクーターについている発信機からサーバーへ、3G網を用いて4〜5秒ごとに車両の位置情報やバッテリー残量などのデータを送っています。それらのデータを日本オラクルが提供している「Oracle IoT Cloud Service」「Oracle Database Cloud Service」「Oracle Java Cloud Service」を用いて解析できる様になっていて、位置情報と標高、下り坂での発電量等から割り出した残走行エリアの予測などをしています。
色々高度な技術は使っていますが、お客様は一切難しいことをしていません。普通に乗っているだけで、自分が今どこにいるのか、電動スクーターのバッテリー残量がどうなっているか、どこまで行けるのか、いつまでの戻れるのかが分かります。現在はこれらの情報は私たちしか閲覧できませんが、今後はスマートフォンで閲覧できる様になります。
登録されている電動スクーター。充電残量など様々な情報を見ることができる。
また電動スクーターに充電されているエネルギーは香川県で作った太陽光エネルギーだけで動いています。「ユビ電」を使うことで、どの電動スクーターに太陽光エネルギーをどれだけ入れたのかを証明することができるので、瀬戸内カレンのレンタバイクは環境負荷がとても低い乗り物です、ということが出来るのです。
―事業化によって明らかになった課題はありますか。
―今後の構想を教えてください。
FINCH編集部より
取材した当日、豊島は快晴で大変な猛暑。インタビュー中にある様に、この猛暑の中で島巡りをするには電動アシスト自転車は最低必要だし、電動スクーターがあればなおのこと堪能できるのは間違いない。しかも3年に一度開催される瀬戸内国際芸術祭は、回を重ねるごとにグレードアップしている。芸術作品が入れ替わるのではなく観に行く場所が増えているのだ。多くの芸術作品は空き家や廃校になった校舎を流用しているから、作品が増えるということは、少しずつ住民の理解が得られてきていることとつながる。実際多くの場所で、住民が案内役として動いている姿を見かけることができた。
全国で開催されているアートフェスの先駆けとなった瀬戸内国際芸術祭は、一時のイベントから海外にも広がる地域観光資源にステップアップしている様に思えた。今後さらなる発展をしていくには、暮石氏の様に地元が企業と手を組み共に発展させていこうという共創による取組みが欠かせない。
Airbnbを使って民泊に泊まり、IoTで武装された環境配慮型のモビリティで、国際色豊かな芸術作品を堪能しながら島巡りをする。豊島にはオープンイノベーションで変わる新しい地域の姿があった。
豊島問題(Wikipedia):
豊島総合観光開発(豊島開発)が、1975年から16年間、産業廃棄物を違法・大量に投棄・野焼きし、1990年に兵庫県警が摘発した。公害等調整委員会が実態調査を行い、投棄された廃棄物は約56万トンとされた(後に91万トン)。同委員会が調停手続し、豊島開発が住民に解決金を支払うこと、香川県が住民に謝罪し廃棄物を撤去・処理すること等を定めた調停が成立した。この調停に基づき、香川県直島で廃棄物処理中である。不法投棄現場は一般市民の立入りを禁止し、重機による産廃の掘り出しと、直島に産廃を移送するための梱包作業が行われている。
瀬戸内カレン(http://www.setouchi-karen.com/)
PSソリューションズ株式会社(https://www.pssol.co.jp/)
ソフトバンク株式会社(http://www.softbank.jp/)
Profile
PSソリューションズ株式会社 CPS事業本部長 山口 典男氏 1987年より国際電信電話(株)(現 KDDI(株))にて人工知能応用研究・網管理技術の研究開発・事業開発、2001年より日本ヒューレットパッカード(株)にて通信業界の事業構築を担当。2006年よりソフトバンクモバイル(株)にてホールセール事業責任者としてディズニーモバイル立上げ等に従事後、ソフトバンクイノベンチャー制度を経て新規事業立上げに着手。現在、PSソリューションズ(株)にてモビリティIoT事業「瀬戸内カレン」及び農業IoT事業「e-案山子(いいかかし)」立上げに取組む。 情報処理学会会員。博士(システム情報科学)。 民泊「暮石さんち」 豊島出身の暮石氏が運営。Airbnbのスーパーホストに認定されており、暮石氏のレビューから多くの外国人が訪問していることがわかる。部屋は同じ敷地内にある離れと、白い壁と白い柵が目印のおしゃれな母屋の2階部分を貸し出している。「瀬戸内カレン」の店長をしている。 https://www.airbnb.jp/users/show/56398210こんな記事が読みたい!
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