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治療アプリがもたらすヘルスケア業界のデジタルトランスフォーメーション

                   
-Tech(X-Tech)
公開日:2018.04.17更新日:2018年4月17日

2014年の薬事法の法改正(通称、薬機法)により、「単体のソフトウェア」が医療機器として同法の対象となった。

つまり患者の症状と医師による診断によって、アプリが処方される可能性が出てきたということだ。

北米では、アプリ単体として糖尿病治療の改善効果を認められ、単体のモバイルアプリの医師による処方がすでに実現されている。

本記事では、治療アプリが、従来のヘルスケア関連アプリと異なるアプローチで、ヘルスケア業界に貢献する可能性について紹介する。

ヘルスケアプリと治療アプリの違い

歩数計や睡眠改善など、ヘルスケアや健康増進に関するスマホアプリは、アプリストアで数多く見かけるだろう。こうしたアプリのほとんどは、日常の健康向上をサポートするものである。

しかし、昨今大きな注目を集めている「治療アプリ」は、こうした従来のヘルスケア関連のアプリとは異なる。治療アプリはその名の通り、治療に活用できる医療機器に該当するものだ。

法改正による関心の高まり

治療アプリへの関心が高まってきている背景には法改正がある。2014年の法改正(現、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律。通称、薬機法)により、単体のソフトウェアが医療機器として同法の対象となったことが大きい。

治療アプリを市場に出すためには、医療機器と同じように治験・臨床試験等が必要になり、第三者機関による承認も得なければならない。そのため、従来のようなヘルスケア関連アプリとは異なり、市場に出るまでのハードルはかなり高いといえる。

治療アプリの効果は千差万別であるが、従来の医療機器よりも日常の生活空間に介入することができるため、用途によっては、新たな治療効果を発揮できるかもしれない。

治療アプリを手がけるスタートアップの登場

こうした状況を受けて日本でもスタートアップの設立や治験が始まっている。

日本で先行して市場に参入したキュア・アップ社は、2017年10月に国内で始めて禁煙治療アプリの治験を開始することを発表した。

また不眠症治療アプリ「yawn」を開発しているサスメド社も順次治験を開始する計画だ。

今後も治療薬や医療機器に続く第3の治療手段として多くの企業が参入する可能性を秘めている市場と言えるだろう。

先行する北米での治療アプリ事情

治療アプリに対する取り組みは、北米が先行している。

治療アプリ市場において、大きな転機となったのは、2010年Welldoc社が開発した「BlueStar」という糖尿病患者向けの治療補助アプリのリリースだ。BlueStarは、医療機器としてFDA(アメリカ食品医薬品局)から、「管理医療機器」であるクラスⅡを取得た。クラスⅡの医療機器になったということは、大手民間保険会社の保険償還の対象となることを意味する。

BlueStarはアプリ単体として糖尿病治療の改善効果を認められた。つまり、医療機器に付属するアプリではなく、医師による単体のモバイルアプリの処方がすでに実現されているのだ。

治療アプリのガイドラインについて

治療アプリや治療補助アプリには、従来医療よりも低コストで同等の治療効果が見込めるという期待感から、FDAは、2013年に「Mobile Medical Applications(MMA)」というガイドラインを公開している。

  • 「医療機器に該当しないアプリ」
  • 「医療機器に該当するかもしれないが低リスクなので規制の有無がFDA判断となるアプリ」
  • 「医療機器に該当するアプリ」

これらのそれぞれに対して明確な線引きを行った。

現在は数々のスタートアップが同領域に参画し、ガイドライン等は2016年10月にアップデートされ、「Software as Medical Device(以下SaMD)」という名前で臨床評価のガイドライン草案を公開されるまでに至っている。

投資カテゴリーのトップに位置する治療アプリ

北米の2017年投資カテゴリーではトップに位置付けられており、Digital Therapeutics もしくはDigital Therapyと総称されており、多くの期待と関心が集まっている。

日本では政府主導によるガイドラインや評価フレームワークの草案はまだ公開されていないが、キュア・アップ社やサスメド社などの参入によって、水面下では検討が行われていると筆者は推察する。

治療アプリに求められる役割とは何か

治療アプリが登場することで、患者にどんな変化が起きるのだろうか。

おそらく一番の違いは、医師の診断のもとで処方された治療アプリを使い続けることで、特定疾患の進行抑制や治療を、医師指導のもとに自分自身でも管理できることではないだろうか。

例えば以下の様な活動を日常的にできると考えられる。

  1. 治療アプリ起動時に自分に合った活動プログラムが提示される
  2. 自宅など医療機関以外の場所で、実施した行動を入力・記録する
  3. 記録された情報をもとに、定期的に通院することでさらに自分に適した診断や治療プログラムを受診できる

これまで診察と診察の間は、入院していない限り患者の主体性に委ねられていた。しかし、より日常活動が治療効果に影響する疾患については、治療アプリによって補完・補助されるだろう。

さらに治療アプリは、在宅や仕事中などの日常生活で、よりパーソナライズされた治療ガイダンスを実施できる様になっていく可能性もある。

想定される治療アプリの機能イメージ

こうした役割を担うためにはどんな機能を実装する必要があるのだろう。様々な見解があるだろうが、例えばこんな機能だと考えられる。

入力・記録の機能

以下の記録や進行度合いを定期的にチェックできる。

  • 日付、時間、実施内容の記録と定期的なチェック
  • 食事内容を記録。例えば商品検索やラベルのスキャン
  • 運動内容を記録(万歩計など)と定期的なチェック

ガイダンス機能

  • 1日の活動の入力ごとにフィードバックや教育を受けられる
  • 1日の活動を改善するために何をすればよいか、個人に最適化されたガイドやリマインド
  • 活動を継続するために必要な動機付けやゲーミフィケーション(家族との共同作業など)

オンデマンドダイアログ機能

  • 治験で効果が認められた内容の啓蒙やレッスン
  • 個々が継続して行動変容出来るためのコンテンツ

ダッシュボード機能

  • かかりつけ医へのレポート
  • 家族などへのレポート・共有

もちろん、こうした機能はターゲットとする疾患により大きく変わるだろうが、治療アプリによる生活介入によって行動変容が起きれば、医療への貢献は非常に大きいはずだ。

まとめ

従来のヘルスケアアプリとは異なる医療機器としての治療アプリの登場は、早ければ、医師や医療機関、スタートアップら主導により、2019年ごろにお披露目になる。

また治療アプリや治療補助アプリの普及によって、本治療との連携にも効果も期待できるため、今後の市場性は相当なものと推測される。

近い将来、疾患によっては、「治療アプリがもっとも治療効果が期待できる」といった処方がなされる日も来るかもしれない。

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この記事の監修者

監修者の写真

株式会社フィンチジャパン 代表取締役

高橋 広嗣

早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。

出版

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法

PR Times記事

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>

ZUU online記事

https://zuuonline.com/authors/d7013a35

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