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DXとは何か?:DXの定義と企業に与える影響

                   
-Tech(X-Tech)
公開日:2024.10.15更新日:2024年10月15日

デジタルトランスフォーメーションという単語を聞くようになってから時間が経ち、国内でも「今後必要な要素になるかもしれない」という蓋然性のある状態から、「企業成長のための重要な課題」である必然性のある経営課題へと変化している。

ChatGPTなどの生成AIのデジタルツール導入、新型コロナウイルス感染症拡大を契機とした大規模なシステム整備による業務の効率化によって、DXの推進は論を待たずに進んでいる状況だ。

近年の企業変革を促した事例を紐解き、社内でDX施策として推進する知識を得るために、今回の記事では、「そもそもDXとは何か?」を説明し、企業に与える影響を論じていく。

DXとは何か?:デジタルトランスフォーメーションの定義

企業内で言われるDXとは、デジタルを活用して企業や業界の変革する「新しい取り組み」。その総称たるキーワードだ。

実務上「DX」と一言で言っても、意味するところや定義、想定されるアクションが幅広いのが実情だ。

まず、このDXの定義と変遷、IT化との違いを説明することで、DXとは何かを明らかにする。

DXの定義

DXは「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略称であり、スウェーデンのウメオ大学に所属していたエリック・ストルターマン氏が2004年に提唱したものだ。

「進化したデジタル技術が社会に活用され、ビジネスだけではなく人々の生活をより良い状態へ変革すること」

経済産業省が定義するDX

また、経済産業省は2018年公表の「DX 推進ガイドライン」(2022年に「デジタルガバナンス・コード」に改訂」では以下のようにDXを定義している。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

ガイドライン中には、企業組織とビジネスモデルを変革するプロセスだけではなく、企業の競争上の優位を確立するプロセスが含まれている。

経済産業省は、デジタル技術のみならず、「ビジネス変革の方向に関する経営戦略や経営者による強いコミットメント」「マインドセットの変革を含めた企業組織内の体制構築」「現場任せにしないブラックボックス化したITシステムの改善」といった新しい取り組みを促す企業風土改革、土壌の改善が不可欠であるとしている。

DXとIT化の違い:デジタル化の進化

DXとよく似た概念として、「IT化」という概念がある。

TeamsやSlack、ChatGPTなどのデジタルツールの導入や業務のシステム化とDX化との違い、またIT化とDXの違いについては、しばしば質問が寄せられている。

IT化とは、「ITやデジタル技術を活用して業務を効率化すること」を意味する。

具体的には、紙ベースの書類をデジタル化したり、従来の人力作業を自動化したりするなど、業務のスピードや正確性を向上させることが挙げられる。Slackや業務システムの導入も立派なIT化だ。

対して、DXとは顧客体験の向上やビジネスモデルそのものの変革、データ・ドリブンによる経営、企業風土の変革など、影響が及ぶ範囲が広い。DXのX、すなわちトランスフォーメーション(変革)とは、「顧客に提供する価値」や「提供する仕組み」を変えることを指す。

AIやIoTの活用による大量のデータの収集・分析・予測することで、顧客の好みに応じたサービスを個別に提供できるようになった。また、顧客データ等を基に高速でPDCAを回してサービスを改善できるようにもなった。つまり、IT化によって企業はデジタル技術を活用するだけではなく、「新しい価値の創造」や「新しい価値を提供する仕組みの構築」するDX推進ができる環境が整ったのだ。

DXの本質

こうした背景を整理すると、DXの本質とは、単なるデジタル技術の導入ではないことが明らかになる。

  • 顧客体験価値の向上
  • ビジネスモデルそのものの変革
  • データドリブン(データに基づいて意思決定や判断をすること)による経営判断、マネジメント
  • 企業風土の変革

DXの本質とは、デジタル技術を活用することで、企業の組織やビジネスモデルを変革することにある。

 

企業におけるDX推進の重要性

前述した通り企業におけるDXとはデジタルを活用して企業や業界の変革する「新しい取り組み」の総称だ。

常に、企業は市場環境の激しい変化に晒されている。この変化の対応としてDXの実施が必要だ。

では、「変化に対応するために」なぜDX推進が求められているのかについて、以下の3つの観点から詳しく説明する。

  • 企業の外部要素:企業の競争力の強化
  • 企業の内部要素:業務効率の向上
  • 企業の環境要素:DXが社会的に与える影響

企業の外部要素:競争力を強化するためのDX推進

外部要素というのは、企業が顧客やステークホルダーなどの外にいる他社に影響を及ぼす要素だ。キーワードは「競争力の強化」だ

前述した通り、企業が市場での競争力を維持し、グローバル市場での優位性を確保するためには、DX推進が必要不可欠である。

競争力を強化するための取組として、①データ・ドリブンによる意思決定、②顧客体験価値の向上、③新しいビジネスモデルの創出が挙げられる。

①データ・ドリブンによる意思決定

ビッグデータを活用して社内データ基盤を再構築し、需要予測や需要予測や在庫管理、顧客の購買傾向などを正確に予測することで、企業の競争力を高めることができる。

②顧客体験価値の向上

競争力を強化するためには、顧客体験の向上も必要不可欠である。パーソナライズされたウェブ体験、オムニチャネル戦略を通じて、顧客の満足度を高めることができ、競合他社との差別化を図ることが重要だ。

③新しいビジネスモデルの創出

DXは新しいモデルを創出し、新しい利益機会を生み出す可能性がある。社内施策がメインの施策であったとしても、そこで集積したデータを利用したIoTやAIを活用したサービス開発により、従来の商品販売にとどまらず、デジタルを活用した付加価値サービスを提供し、競争力を強化することが可能だ。

企業の内部要素:DXがもたらす業務効率化の重要性

内部要素というのは、自社の従業員や業務のプロセスなど自社活動に影響を及ぼす要素だ。キーワードは「業務効率化」だ。

DXは、企業の業務プロセスをデジタル化し、業務効率を大幅に向上させることができる。

DXは業務プロセスを効率化し、従業員のクリエイティブな業務へのシフト、生産性向上などを実現できる。

例えば、業務プロセスをデジタル化したことで業務効率化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション、パソコンを用いた作業を自動化するツール)を用いることで、自動化技術の導入でコスト削減と生産性向上が実現することができる。

①プロセスの自動化による効率化

RPAなどの自動化ツールを活用することで、手作業によるデータ入力やチェック作業など、時間がかかる反復的な業務を自動化できる。

例えば、経理部門でRPAを導入した場合、請求書の処理や経費精算といった業務が自動化かされるため、その分の作業が効率化できる。加えてRPAを活用は人為的なミスを減少させ、業務スピードが大幅に向上する。

②創造的な業務へのシフト

RPAによる自動化が進むことで、従業員はこれまで時間を割いていた定型業務から解放され、より戦略的で創造的な仕事に集中できるようになる。

例えばマーケティング部門では、人手によるデータ入力など定型業務が大幅に削減され、顧客データの分析や広告キャンペーンの戦略立案など、企業の成長に直結するクリエイティブな業務にリソースを投じることが可能となる。

企業の環境要素:DX推進が企業に与える社会的影響

環境要素というのは、企業を取り巻く社会に影響を及ぼす要素だ。

DXは、単なる企業の競争力強化や生産性向上に留まらず、社会全体に大きな影響をもたらしている。特に、労働力不足や環境問題といった現代社会が直面する課題に対して、DXは持続可能な解決策を提供する重要な手段になり得る。

①労働力不足の対応

AIやロボティクスの活用により、人手に頼らずに多くの業務を自動化することが可能となり、労働力不足の問題を軽減することが期待されている。

例えば少子高齢化・労働力不足が深刻なシンガポールでは、社会のあらゆる領域でDXを普及させることで対応している。ほぼ全ての行政手続きはオンラインで可能で、遠隔医療が普及している。人口当たりのロボット導入台数では韓国と1位、2位を争っており、手術支援ロボや調理ロボットなどの導入が進んでいる。

人口減少が深刻な日本では、少ない労働力で高品質な製品・サービスを提供するため、シンガポールなどの例は参考になる。

②環境問題の対応

DXは企業のビジネスモデルを変革し、持続可能な環境にやさしい経営を可能にする。

クラウド技術の導入によるペーパーレス化や、データ分析を活用したエネルギーの最適管理など、DXを通じて企業はより環境に配慮した運営が可能になる。

③地方創生の実現

リモートワークが普及することで、都市部に依存しない働き方が可能になり、地方でも高度な仕事に従事できる環境が整いつつある。この流れは都市部への人口集中を緩和し、地方活性化につながることが期待されている。

例えば、徳島県神山町は、サテライトオフィスの誘致を10年ぐらい前から進めた結果、人口がわずかながら増加に転じた。新規移住者が増加することでおしゃれなカフェやパン屋も増え、地方創生のモデルケースとして注目を集めている。

 

DX推進実現に向けた戦略

DX推進において何より重要なのは、実施する企業のDX推進部門が明確な戦略を立案から評価するまで、社内グループと連携して運用し切ることだ。

本項ではDX推進実現までの戦略の方法を解説する。

DX戦略の立案のサイクル:戦略の立案から評価まで

効果的にDXを実現するには、以下のような戦略立案から実行、評価、すなわちPDCAサイクルを運用することが重要だ。

  • ①計画
    • 社内体制の整備(人材確保)
    • DXのゴールの明確化(戦略立案)
    • ゴールの達成に必要なギャップを把握(現状分析)
    • ロードマップの策定
  • ②行う
    • 導入するデジタル技術の導入
  • ③チェック
    • DXの推進状況の評価
  • ④行動する
    • 課題の改善

①計画

社内の体制の整備 (人材確保)

まずDXを推進するため、デジタル人材を確保し、社内体制を整備することが必要となる。具体的には、デジタル人材チームを集めて、経営部門の直下にDX推進チームを設置する。

DX推進チームは、専任のCDC(Chief Digital Officer)と、(事業規模によるが)推進メンバーで構成される。DX推進チームにはコミュニケーション能力と業務の知識、デジタル技術の知見のある人間を置く。

AIやビッグデータなどの専門知識やプロジェクトマネジメントなどのスキルを持つ人間が社内に不在な場合、外部人材を登用するのも一案だ。ただし社内の業務、部門、人間関係に精通した人材が不在だと、DX推進が困難になるため、社内の人材を配置するのが望ましい。テクノロジーの専門人材のみ、外部人材に頼るというのも一手である。

DXのゴールの明確化(戦略立案)

次にDXを進める目的やDXで実現したい企業のあり方など、DXで達成したいゴールを明確化にする。

IT部門が経営陣と業務部門、と対話を重ねたり、中長期経営計画など経営資料から課題を抽出したりしながら、DXで実現したいこと(ゴール)を明確化する。DXを全社員が一丸となって進める前提として、経営陣がDXの目的を共有必要がある。そのため全役員が主体的に参加できるように段取りを決める必要がある。

ゴールの達成に必要なギャップを把握(現状分析)

ゴールを明確化したら次に、自社のDX推進状況を把握するプロセスになる。ゴール(理想)とギャップ(現実)を整理し、そのギャップを埋める方策を考える。

この段階では、社内のDXに資する取り組み状況を把握する必要もある「書類管理のデジタル化状況」、「業務におけるデータの収集・利活用状況」などを実施しているかについて確認を行う。

この目的は、社内のデジタルツールの利用状況やデジタルリテラシーの状況など、DXに間接的に関わる要素についても把握することで、何から取り組むべきかについて必要な情報を収集するためだ。

情報収集をした後は、ゴールから逆算して何を達成する必要があるかをまとめる。

ロードマップの策定

社内の現状分析を終えたら次に、ロードマップを策定する。具体的には、プロジェクトの優先順位や目標期限、進行スケジュール、責任者を明確化する。

DXを推進したい分野があるもののリソースが限られている時は、影響度の高いビジネス領域に焦点を当てる。具体例を挙げると、顧客対応の自動化が売上に直接影響を与える場合、そのプロセスの改善が優先事項になる。

②行う

デジタル技術の導入

ここまできたら次は、デジタル技術の導入のフェーズだ。

まずはスモールスタートから始めることが望ましい。小規模なプロジェクトや一部の部署で実験的に導入した上で、その効果を検証してから、段階的に全社展開する方法である。この方法の場合、リスクを最小限に抑え、早期に成果の確認ができる。

③チェック

DXの推進状況の評価

次のステップは、DXの導入した結果について、評価し課題を抽出するフェーズだ。

評価する項目としては、目標と結果が合致しているかの定量的評価(KPIの達成度の確認)と定性的評価、DX導入の投資対効果、プロジェクトの進捗状況、デジタル技術の導入の効果測定などが挙げられる。

④行動する

課題の改善

DXの導入結果の評価を踏まえて、課題の改善活動を行う。例えば、目標と結果が乖離している場合はDX戦略を見直をする、といったことを行う。

①~④のPDCAサイクルを繰り返すことで、DX戦略の立案から運用まで効果的に行うことができる。

成功するDXプロジェクトのためのフレームワーク

またDXを成功させるためには、適切なフレームワークの活用が不可欠である。特に、変化の激しいビジネス環境では、柔軟で迅速なプロジェクト運営が重要だ。そこで有効なのが「Agile(アジャイル)」や「Lean(リーン)」といった手法である。

アジャイル開発

従来の開発手法では最初に計画を立てて計画通りに制作するのに対して、アジャイル開発では機能単位の小さいサイクルで繰り返すのが最大の特徴である。

アジャイルとは「素早い」、「機敏な」、「頭の回転が早い」を意味する。

アジャイル開発では製品の一部をまず開発してリリースを行い、フィードバックを受けることで素早く改善することができる。電気自動車のテスラやSpotifyの開発で実践された。

リーン開発

一方、リーン開発とは「開発における無駄をなくし、低コスト・短期間で顧客ニーズが満たされる製品を作る」手法だ。

アプリ開発を例にすれば、必要最小限度の機能のみ実装したアプリを開発、リリースし、ユーザーからのフィードバックを受ける。Instagram、食べログはリーン開発の事例として知られている。

DXプロジェクトのフレームワークを用いるメリット

アジャイル開発やリーン開発などののフレームワークを用いることで、DXプロジェクトは変化に対応しやすくなり、効率的かつ迅速な進行が可能となる。

DXを推進するために必要な人材育成方針とスキル

PDCAサイクルの第一歩となる『社内体制の整備』では、「デジタル人材」と呼ばれる資源・資本が必要になる。

ここではDX推進チームに必要なデジタル人材の育成方法に加えて、DX時代に求められる社員のスキルセットについて論じていきたい。

DX推進に必要なデジタル人材の確保と育成

企業のDX推進チームには、デジタル人材は必要不可欠だ。

ここでいうデジタル人材とは、AIやIoT、VRなどの最先端のデジタル技術を駆使して「新しい価値」を創出することができる人材のことを指す。例えば、「ビジネス・サービス設計の人材」、「プロジェクト管理の人材」、「AI・データ分析・IoTなどのテクロジーに関わる人材」がデジタル人材として挙げられる。

ただし、デジタル人材は不足が深刻化しており、外部からデジタル人材を登用するだけではなく、自社でも育成する必要がある。

デジタル人材の育成

デジタル人材の育成は以下のステップで進められる。

  1. 育成計画の立案
  2. 育成方法の決定
  3. 育成後の振り返り次のアクションプランの設定

育成計画の立案

育成にあたってはまず、育成計画を立案する必要がある。

自社のDX戦略に合わせて、必要な人材をピックアップし、育成対象者を選定する。

具体的には、「ビジネス・サービス設計の人材」、「プロジェクト管理の人材」、「AI・データ分析・IoTなどのテクロジーに関わる人材」のうち、どのデジタル人材が必要で、どの程度不足しているかを把握する必要がある。自社で育成しきれない場合は、どの人材を外部登用するかも検討する。

育成方法の決定

次に育成方法の決定である。

デジタル人材の育成方法として、OJTや外部研修、e-ラーニング、Microsoft Azure認定資格などの資格の勉強・取得などが挙げられる。

自社の状況と育成対象者のスキルレベルに合わせて育成方法を決める必要がある。

育成後の振り返りと次のアクションプランの設定

デジタル人材を育成したら、育成後の振り返りと次のアクションプランの設定が必要不可欠である。

育成対象者のレベルの到達状況や、育成方法の良かった点と悪かった点、改善が必要な点を把握する。

さらに目標達成度を把握する方法として、「スキルマップ」の策定も効果的だ。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は「デジタルスキル標準 ver1.1」を公開しており、この内容に基づいてスキルマップを立案するのが望ましい。

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/20230807001-d-1.pdf

DX人材育成の代表的な企業

実際にDX人材を育成している代表的な企業としてフォルクスワーゲンとソフトバンクが挙げられる。

フォルクスワーゲンは、電気自動車への移行、自動車業界のCASE化に備えるため、「Degreed」と呼ばれる学習プラットフォームを活用してデータ分析、ソフトウェア開発、AI等のデジタルスキルを従業員が学習している。

またソフトバンクは、社員を対象にAIやDXのリテラシー向上のための学習プログラムを提供している。

DX時代に求められるスキルセット

DX人材の育成は大手企業が注力しているテーマになっている。ただし、DXを実施して推進するためには、DX担当者だけではなく社員全体がDXに関わるスキルが求められる。

そこで、社員全体に必要なスキルセットについて幾つか解説する。

①基本的なITツールのスキル

Microsoft 365やGoogle Workspaceなどのオフィスツールの使い方を習得し、業務を効率的に進めるスキルが要求される。それに加えて、セキュリティの基本的な知識も必要となる。

②データ活用スキル

データ・ドリブンによる意思決定が普及するため、一般社員もデータを理解し、活用する力が要求される。具体的には、データの収集、整理、分析すること能力が必要となる。

③問題解決能力

デジタル技術の導入に伴い、既存の業務フローやビジネスモデルが変化していくため、それに対応する問題解決能力が必要になる。クリティカルシンキングやデザイン思考が重要になる。

デジタル人材のベンチマークの参考

なおデジタル人材のベンチマークとして、IPAは「ITスキル標準」を提示しているため、是非とも参考にしていただきたい。

https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/plus-it-ui/itss/index.html

DX導入における3つの課題とその解決法

DXの推進ステップと人材のスキルセットを踏まえて、いざDXを推進するに当たって直面する3つの課題がある。

レガシーシステムからの脱却

レガシーシステムとは、新しい技術の普及などで古くなった技術や仕組みで構築されている基幹システムやソフトウェアのことだ。

レガシーシステムを使い続けることの問題点として、システム管理・運用の属人化、システム連携の問題、パフォーマンスの低下などの問題がある。

とある自治体では、30年以上前に開発された情報システムの保守を1人技術者に依存していたため、技術者の退職後、システムの不具合に対応できない事例があった。レガシーシステムの中にはCobolなど今はほとんど使用されていないプログラム言語で構築されているシステムもあり、トラブルの復旧に支障を来たす事例もある。

日本でDXの必要性が叫ばれる背景のひとつに、「2025年の崖」問題が挙げられる。「2025年の崖」問題とは、2025年に20年以上稼働しているレガシーシステムの割合が6割に達することで、システムの老朽化が深刻化し企業のデジタル競争力が低下し、最大で年間12兆円の経済損失が発生する問題のことだ。

レガシーシステムからの脱却するステップとしては、まずシステムの現状分析を行った上で、どの部分がDX推進のボトルネックになっているかを特定する。次に、段階的な移行計画を立て、必要に応じてクラウドや新しいデジタルプラットフォームを導入する。こうしたアプローチにより、業務を滞らせることなく、スムーズなDX推進が可能になる。

DX推進に伴う組織文化の変革に対するコンフリクト

DX推進では組織文化の変革も課題として挙げられる。

DX推進は、単なるデジタル技術の導入に留まらず、組織文化や業務慣習の変革を必要とする。特に柔軟でオープンな文化の形成が重要であり、デジタルに対する抵抗感を減らすことが成功のカギだ。そのために、社員がデジタル技術に慣れ、心理的安全性を持って挑戦できる環境作りが求められる。

このとき、既存のビジネスモデルや業務フロー・組織文化に慣れた従業員が、新しいデジタルツールやプロセスに対して抵抗を示すことがよくある。

この問題を解決するためには、トップダウンのリーダーシップと従業員の意識改革が重要になる。リーダー層が積極的にDXの重要性とビジョンを示しながら、率先してDXに取組むことで、会社全体にDXを浸透させることが必要不可欠である。また従業員がデジタル技術を受け入れやすくするための教育やトレーニングを提供することも効果的だ。

新技術導入に伴うリスクとその解決策

新技術の導入は、競争力を高める。一方で、さまざまなリスクも特に技術的リスクや人的リスク、セキュリティリスクは避けられない。

技術的リスクには、システム障害やセキュリティの脆弱性が含まれ、これが業務に大きな影響を与える危険性を指す。一方、人的リスクとしては、従業員のスキル不足や新技術への抵抗感が挙げられる。これらのリスクに対処するためには、従業員教育やトレーニング、リスク管理体制の強化が不可欠だ。

セキュリティリスクに関しては、データ漏洩やサイバー攻撃に備え、最新のセキュリティ対策を講じることが要求される。また、技術の導入による業務プロセスの変化が従業員に与える影響も考慮すべきであり、これらに対処するためには、従業員のスキル向上や新技術に関する理解促進が重要である。

社内データ活用の重要性

これらの課題を解決しながらDXを進めるべき理由は、上述した通り、市場環境の変化に対応して競争力をつけるためだ。

市場環境の対応と競争力の向上は、社内データの活用による「データ・ドリブン経営」という形で結実する。

この社内データ活用は企業の競争力向上や意思決定の精度向上に伴い、重要性が非常に高まっている。IoTやAIによるビッグデータ分析などの最新のテクノロジーによって、大量のデータを収集し、分析・予測できるようになったこともデータ活用の重要性に拍車をかけている。

DXにおけるデータドリブン経営の重要性

社内データの活用の分野で近年、注目を集めている言葉が「データ・ドリブン経営」だ。「データ・ドリブン経営」とは、データの分析結果に基づいて経営判断や意思決定を行う経営手法のことである。

従来の経営手法では、経験や直感、過去の成功事例に基づいて意思決定が行われることが多かったのに対し、データドリブン経営では、データに裏付けられた事実を元に意思決定を行うため、より客観的で効率的な経営が可能となる。

最新のデータに基づいた迅速な意思決定が可能になるため、素早い市場の変化への対応や意思決定のための会議などの工数の削減ができ、高速でPDCAサイクルを回すことが期待できる。

例えばZOZOTOWNは、顧客の購買行動データのリアルタイムでの把握、分析、A/BテストによるUX/UIの改善を繰り返すことで顧客満足度の向上や売上高の増加、迅速な意思決定を実現している。

ビッグデータを活用した業務効率化

企業が持つ大量のデータ、すなわちビッグデータの活用は企業にとって業務効率化とコスト削減を実現する強力なツールになる。

ビッグデータを活用することで、顧客行動の詳細な分析や市場動向の予測が可能となり、企業はこれらの情報を基に業務プロセスの改善やマーケティング戦略の最適化を図ることができる。

具体的には、ターゲット顧客の購買行動を分析し、適切な商品やサービスを提供するタイミングを見極めることで、無駄なコストを削減し、収益性を高めることができる。

例えば、Amazonや楽天はビッグデータを活用して顧客の購買パターンを分析すれば、購入履歴や検索履歴に基づいて関心の高い商品を推奨し、購入率の向上を実現している。また、物流や在庫管理においても、精度の高い需要予測により、過剰在庫や欠品を防ぎ、コストを最適化できるため、業務の効率向上が可能だ。

ビッグデータの利点は、膨大な情報をリアルタイムで処理し、迅速な意思決定を促進する点にある。これにより、企業は市場の変化や顧客ニーズに迅速に対応し、業務効率化とコスト削減を通じて競争力を強化できる。

データ分析がもたらす意思決定の強化

データ分析の活用は、企業の意思決定を強化し、迅速かつ正確な対応を可能にする。市場の変化や顧客ニーズをリアルタイムで把握し、パターンを分析することで、企業は競争優位性を維持しながら的確な意思決定を行うことができる。

例えばローソンは、売上高31位の「ほろにがショコラブラン」のデータを分析し、「1割のヘビーユーザーが売上高の6割を占めている」という事実を突き止め、販売を継続するという意思決定を行なうことができた。

データに基づく意思決定は、経験や直感に頼るよりも信頼性が高く、リスクを最小限に抑えた判断が可能だ。データ分析を活用することで、企業は戦略的なアクションを迅速に実行し、持続的な競争力を維持できる。

DXを進めるためのツールと技術

「データ・ドリブン」でDXが推進するのは、経営という大きなテーマだけではない。

データを活用したDXを進めるためには、さまざまなツールと技術を有用に活用することが不可欠である。

本項ではそんなDXにおけるツール、技術の具体的な活用例を紹介する。

AI・IoTなどの先進技術を活用

AIやIoTを活用することで、製造業やサービス業をはじめとする様々な業界で自動化や個別ニーズの対応が実現している。

製造業の事例

例えば、製造業では、AIを活用した品質管理システムが導入されている。AIが生産ラインのデータをリアルタイムで解析し、製品に欠陥がある場合は即座に検知し、対処することが可能だ。これにより、人的ミスが減少し、コスト削減や生産性の向上を実現している。さらに、IoTセンサーを組み込んだスマート工場では、機械の稼働状況やエネルギー消費をリアルタイムでモニタリングし、効率的なメンテナンスや生産計画の立案が可能だ。

ダイキンを例にすると、AIによる監視システムを導入し、エアコンの故障・品質管理を強化している。従来は部品の経年劣化や不具合などの故障の傾向把握を人手でやっていたが、現在は部品のロット不良や故障しやすい箇所を自動的に発見してアラートを出すAIを取り入れている。その結果、品質管理のプロセスを大幅に効率化した。

サービス業の事例

またサービス業においては、AIチャットボットが顧客対応を自動化している。これにより、24時間体制の顧客サポートが可能となり、顧客満足度の向上が可能だ。

実際に楽天の「Rちゃん」というAIチャットボットを導入し、注文状況や配送状況などを24時間365日確認することができる。

業務自動化ツールの導入とその効果

RPAなどの業務自動化ツールの導入は、業務効率化において非常に重要な役割を果たす。RPAの真骨頂は、反復的な業務を自動化することで大幅な業務時間の削減、効率化を実現できる点だ。

例えばフジはRPAを導入し、アフターサービスの件数や貯蔵品数などの入力作業、売上の転記作業を自動化することで、年間1,700時間の余力を創出することに成功した。

RPAの導入は、単なる効率化にとどまらず、DXの推進における重要なステップとなる。従業員が単純作業から解放されることで、創造的な業務に集中でき、企業全体の競争力向上に寄与することが期待されている。

DX推進に必要なプロジェクト管理ツール

データ分析・解析などの実務ではなく、プロジェクト推進にもツールの存在は欠かせない。

DXプロジェクトを成功させるためには、AsanaやTrelloなどのプロジェクト管理ツールが非常に有効だ。これらのツールは、プロジェクトの進行状況を可視化し、効率的なタスク管理とコミュニケーションをサポートする。Asanaでは、タスクの締め切りや優先度設定が簡単に行え、Trelloではボード形式で進行状況を視覚的に整理できるため、プロジェクト全体を直感的に把握できる。

リモートワークが普及する中、こうしたツールを使えば場所に関係なく情報共有が可能となり、意思決定や課題解決のスピードが向上する。結果として、DXプロジェクトのスムーズな進行と目標達成が実現する。

DX推進事例:成功に導く企業のケーススタディ

国内企業のブリヂストンのケースはDXを活用した業務改善や新しい技術の開発事例、海外企業のNetflixのケースはDXによる事業モデルそのものの転換事例として参考になる。

日本企業におけるDX成功事例

タイヤ大手のブリヂストンは、リアルの「匠の技」とデジタルを融合させる取組に力を入れている。

航空機用タイヤおよび鉱山・建設車両用タイヤを製造する熟練技能員の高度な技術をモーションカメラや慣性・圧力センサーで計測、可視化することで新人の技能習得に活かしている。

フライトデータやAI等による摩耗予測技術、同社の持つタイヤの知見を組み合わせることで、航空機用タイヤの摩耗予測技術を開発した。同技術を活かして、精度の高い計画的なタイヤ交換を実現している。

海外企業におけるDX成功事例

DVDのレンタルサービスからスタートしたNetflixは、いちはやく動画配信のストリーミングサービス事業を開始した。

ただ既存のコンテンツを提供するだけではなく、従来のテレビ業界に依存しないオリジナルコンテンツの制作、配信することで、デジタルコンテンツ配信プラットフォームへと進化し、顧客体験の向上や新たな収益モデルを創出することに成功した。

日本企業が直面するDXの現状

最後に日本企業のDXの現状についてみていこう。

日本企業のDX推進状況と課題

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX白書2023」によると、2022年度時点でDXに取り組む国内企業の割合は69.3%である。2021年度比で10ポイント上昇した。

その一方で中小企業のDXの取り組みは依然として遅れている。「中小企業のDX推進に関する調査(令和4年5月)」によると、国内の中小企業におけるDXの理解度は37.0%に留まっている。国内企業全体のDXの取り組み割合が7割近くに上っていることを考慮すると、中小企業と大企業の取り組み状況で二極化しており、中小企業のDXは重要な課題の一つである。

グローバル視点から見た日本のDXの遅れ

海外、特に米国と比較すると日本のDXの取り組みは遅れている。

例えば「DX白書2023」によると、全社的にDXに取り組んでいる国内企業の割合は54.2%と、米国の68.1%を下回っている。国内企業の縦割り組織や組織風土の改革は課題だ。

DX推進における政府の支援政策

政府は産業競争力強化法に基づきDX投資を促進するため、DX投資促進税制を2021年度の税制改正で創設した。2021年8月2日から2023年3月31日までの期間限定でDX投資促進税制が開始した。2023年度の税制改正で一部改正し2025年3月31日まで延長した。

税制優遇措置の内容は以下の通りである。

  • 税額控除: 投資額の3%
  • 特別償却: 取得金額の30%

※税額控除と特別償却はいずれか一方を選択

なお対象資産は以下の通りである。

  1. ソフトウェア
  2. 繰延資産(クラウドシステム導入の初期費用)
  3. 器具備品(ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するもの)
  4. 機械装置(ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するもの)

適用要件は以下の通り

  • ①デジタル要件(D要件):
    • IPAによる「DX認定」を取得すること
  • ②企業変革要件(X要件):
    • 全社的な意思決定に基づくDX推進であること
  • ③投資額要件:
    • 国内売上高の0.1%以上の投資であること
    • 投資額上限は1社300億円

また補助金としてはIT導入補助金や事業再構築補助金などが挙げられる。

IT導入補助金

中小企業や小規模事業者向けのITツール導入支援制度である。

主な特徴は下記の通り。

  • 1社最大800万円の補助が可能
  • 導入するITツールの費用の最大3/4が補助される

事業再構築補助金

事業再構築補助金は、DXを目的とした投資も対象としている。新規事業開拓や事業転換など、DXを推進する際の大規模な取り組みに活用できる。

主な特徴は下記の通り

  • 1社あたり最大1億円
  • DX投資以外の人材育成、広告宣伝など幅広い経費も対象。

DX以外の経費も対象となるため、事業モデルの変革を伴うDXプロジェクトに最適である。

DX促進税制や補助金などを活用することで、効率的にDXを進めることができるだろう。

まとめ

DXとは、単なるデジタル技術の導入にとどまらず、企業のビジネスモデルや組織文化にまで変革をもたらす重要な概念である。DXを通じて、企業は新しい価値を創造し、効率化と競争力を向上させることが必要不可欠になっている。

そしてDXの成功には、技術的な導入だけでなく、組織全体の意識改革や柔軟な対応が求められる。

変化のスピードがますます加速する中で、DXはすべての企業にとって避けられないテーマであり、これを機に企業は持続可能な成長を実現するための土台を築く必要がある。今後のデジタル時代に備え、DXを戦略的に進めることが成功の鍵となるだろう。

DXを具体的に企業内で推進するために、専門の組織を立てる事例が登場し始めている。

DX推進部門の役割と重要性:企業変革をリードする部門の活動とは?」という記事に、DX推進部門の設立や運用について詳しく説明している。

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この記事の監修者

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株式会社フィンチジャパン 代表取締役

高橋 広嗣

早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。

出版

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法

PR Times記事

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>

ZUU online記事

https://zuuonline.com/authors/d7013a35

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