DX化のメリットとは?企業が得られる効率化と成長のポイント
公開日:2024.11.01更新日:2024年11月1日
DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、企業が現代の急速に進化するビジネス環境において競争力を維持し、成長するための重要な要素となっている。DXを推進することで、業務の効率化だけでなく、新たなビジネスモデルの創出や顧客体験の向上といった多くのメリットが得られる。
しかしながら、すべてのDXが成功しているわけではなく、計画策定の失敗や社員、組織の理解不足などを理由に失敗に終わるケースも少なくない。
今回の記事では、企業がDXによってどのように効率化を進め、成長を実現できるのか、そのポイントを探っていく。
DX化とは?企業が知るべき基本概念
DXの定義とその重要性、IT化と「DX化」は何が違うのか
検索エンジンでDXに関するサジェストを見ると、「IT化とDX化の違い」といったキーワードが散見される。
本題に入る前に、そもそもDXとは「Digital Transformation」の略称であり、変化するプロセスと変化の結果の両方を指す。したがって、「DX化」という記載は「馬から落馬する」ような重言表現だ。本記事では、以降「DX」と記載する。
それでは改めて、「IT化とDXの違い」について説明する。
まずITとはInformation Technology、情報技術の略称だ。日本のビジネス用途で使用されている「IT化」は、内包している要素の揺れはあるが「テクノロジーやソフトウェア技術を用いて既存業務を効率化・より正確化すること」と言える。
一方DX化だが、経済産業省は2018年公表の「DX 推進ガイドライン」(2022年に「デジタルガバナンス・コード」に改訂」では以下のようにDXを定義している。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
つまりDX(デジタルトランスフォーメーション)とは企業がデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを根本的に再構築し、競争力を強化するプロセスを指している。
ITインフラ、AI、IoT、ビッグデータ、クラウドなどの技術を導入することで、企業の組織風土、ビジネスモデルなどを変革し、市場における優位性を確保することと言える。
まとめると、IT化とは「業務単位で見た効率化」であり、DXとはスケールがより広い「競争力強化のための変革」である。
個別の事柄単位で見ると類似するように感じるかもしれないが、目的部分が大きく異なる。
デジタル技術の革新が企業にもたらす影響
デジタル技術の革新は、企業のあらゆる側面に大きな影響を与えている。
IT、AI、IoT、クラウド、ビッグデータなどの進展により、企業の業務プロセス、ビジネスモデル、顧客対応、競争環境が大きく変わりつつある。
企業がDX化を進める理由と背景
デジタル化のトレンドと社会的背景
デジタル化は世界的なトレンドである。その中で日本のデジタル競争力は64ヵ国中32位(2023年)と低迷している。
電子行政を例にすると、エストニアではほぼ全ての行政手続きがオンラインで可能なのに対して、日本は窓口に行く必要がある手続きが残っている。企業の設立手続き一つとっても、エストニアではオンラインで数時間以内に完了するが、日本では数に程度手続きに時間がかかる。
デジタルを活用したユニコーン企業(起業10年以内で評価額が10億ドルの企業)は、世界で1000社を超えるのに対して、日本は7社と非常に少ない。
世界中の企業がDXに取り組む中、日本の立ち遅れが目立っており、企業競争力の観点からDXの取り組みは喫緊の課題と言えるだろう。
2025年に向けた企業戦略としてのDXの位置づけ
DX推進の背景には、「2025年の崖」問題がある。
「2025年の崖」問題とは、2025年までに企業のITシステムの老朽化やIT人材の人材不足と高齢化、新技術の対応の遅れが深刻化し、日本経済に悪影響を与えるという問題だ。
特に基幹システムの老朽化の問題は深刻で、21年以上稼働している基幹システムの割合が2025年に6割以上に達し、最大で年間12兆円の経済的損失が発生すると経済産業省が試算している。
具体的な経済的な損失として、AIやIoTなどの最新のテクノロジーへの対応の遅れによる競争力の低下、保守運用コストの高騰などの問題が挙げられる。
日本は企業元々、既存システムの保守・運用などの「守りのIT投資」の比率が「攻めのIT投資」の比率に比べて高いことも問題として指摘されており、「2025年の崖」問題は単なるレガシーシステムの刷新だけではなく、ビジネス全体の変革と捉えることが必要だ。
事例:企業の成長を加速させるデジタルの影響
デジタル技術の導入で、企業の成長を実現している企業がある。
その一例として米国家電量販店のBest Buyがあげられる。Best Buyは日本でいうならば、ヤマダ電機やヨドバシカメラのような企業だ。
米国ミネソタ州ミネアポリスに本社を置く世界最大の家電量販チェーンのBestBuyは2012年、AmazonなどのECサイトとの台頭を受売上高が前年比で16%減と低迷した。消費者が実店舗を訪れて商品を確認してから、より安価なオンライン価格で購入する「ショールーミング」という現象が問題となっていた。
新しく就任したCEOのヒューバート・ジョリー氏は、「Renew Blue」という改革プログラムを実施した。
具体的にプログラムは以下の通り。
- オムニチャネル戦略:オンラインで注文した商品を実店舗で受け取ることができるサービスをはじめとする実店舗とオンラインの統合
- 価格マッチング保証制度:オンラインの方が安価だった場合に同じ価格で購入できる
- WebページのUX/UIの改善
- Webページの購入ページまでのクリック数を3つまでという原則を徹底(Amazonなど他ウェブサイトと比較する機会を削減)
こうした取り組みを積み重ねた結果、Bestbuyの売上高は2012年の454億ドルから2022年には517.6億ドルに拡大した。
このようにデジタル技術を導入し、対応したビジネスを模索することで企業は売上高の拡大、顧客ロイヤリティの確保を実現することができる。
DXのメリットとは?
企業がDXを導入するメリットについて、生産性の向上やコスト削減、データ活用の観点から説明する。
生産性の向上とコスト削減
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業の生産性向上とコスト削減を同時に実現するための強力な手段となっている。
デジタル技術の活用により、業務が自動化・効率化され、生産性が向上すると同時に、手作業の削減やIT活用によるコスト削減を実現することができる。
以下具体例を交えてDXによる効果を解説する。
RPA
まず、業務の自動化が生産性向上に直結する例として、製造業における「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」の導入が挙げられる。
あるメーカーでは、RPAを使って受発注処理や在庫管理などの手作業を自動化し、業務時間の大幅な短縮を実現した。従業員が付加価値の高い業務に集中できるようになった。また、これによりヒューマンエラーも削減され、業務の精度が向上している。
クラウドサービス
次に、IT活用によるコスト削減の事例として、クラウドサービスの導入がある。
従来のオンプレミス型サーバー管理は、サーバーの設置や保守管理に多大なコストがかかるが、クラウドへの移行により、設備投資を抑えつつ必要なデータ処理能力を確保できる。実際に小売業のある企業では、クラウド移行によりサーバー管理コストを削減し、情報システムのメンテナンス時間も短縮したことで、他部門のサポート業務にリソースを割けるようになった。
自動倉庫システム
さらに、手作業の削減がコスト削減と生産性向上の両方に貢献する例として、物流業における自動倉庫システムが挙げられる。
ある物流企業では、自動仕分けロボットを導入することで作業時間を大幅に短縮し、人件費の削減を実現した。これにより、同じスペースでより多くの在庫を取り扱えるようになり、物流拠点の効率が向上しただけでなく、配送スピードの向上にも繋がっている。
このように、DX化による業務の自動化とITの活用は、生産性向上とコスト削減に大きな効果をもたらし、企業の競争力の強化に寄与している。
データ活用による意思決定の迅速化
DXはリアルタイムでのデータ収集と分析を可能にし、サプライチェーンや在庫管理の最適化を進め、無駄なコストを削減できる。
IoTデバイスやクラウド技術を活用することで、リソース配分の効率を高め、無駄な生産や在庫を防ぐことで、運営における意思決定効率を向上することが可能だ。特に、AIやビッグデータを利用したデータ分析を活用することで、企業はより戦略的で柔軟な対応が可能となり、激しい市場競争において優位性を確立することができる。
以下に、実際の企業の具体例を挙げ、データ活用が企業の迅速な意思決定にどのように寄与しているかを説明する。
ユニクロ (UNIQLO) の顧客データ活用と商品企画
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、オンラインや店舗での購買データを基にAIで分析し、どのアイテムがどの地域や性別、年齢層に人気があるかを把握している。
このデータをもとに、地域ごとに人気のアイテムを在庫として揃えたり、商品の改良や新商品の企画に反映したりしている。また、購買履歴に基づいたパーソナライズドなプロモーションを行うことで、顧客満足度向上に寄与している。データ分析チームにはデータサイエンティストも配属している。
ネットフリックス (Netflix) のレコメンデーションシステム
ネットフリックスは、ユーザーの視聴履歴、検索履歴、視聴時間などのデータをリアルタイムで収集し、AIを用いてユーザーに最適なコンテンツを推薦するレコメンデーションシステムを提供している。
このシステムは、ユーザーが好むジャンルや類似の視聴パターンを分析し、視聴体験を最適化することで顧客満足度を高めている。また、このリアルタイムなデータ活用により、どの番組に予算を投入すべきかの判断が迅速化され、制作費の効率的な配分にも寄与している。
競争力を保つためのデータ活用
これらの事例からわかるように、データ活用は、企業が市場の変化や顧客ニーズに迅速に対応し、競争力を保つための強力な武器である。
リアルタイムのデータを基にした意思決定の迅速化は、ビジネススピードを向上させるだけでなく、コストの最適化、顧客満足度の向上、さらにはイノベーションの加速にも繋がるため、企業にとってメリットが大きい。
DXのデメリットを理解する
DXは生産性の向上など多くのメリットをもたらす一方で、適切に導入されなければデメリットが発生する可能性がある。
コストの増加、従業員の抵抗、セキュリティリスクなど、DXにはリスクが伴うことも事実である。本章では、DXの進行に伴うデメリットを理解し、リスクを抑えるための対策について考察する。
DX導入における課題とリスク①:初期投資のコスト
DXは企業に多くのメリットをもたらす一方で、初期投資のコストや既存システムとの統合に伴う課題も存在する。
本来DXは業務の効率化や収益向上に寄与するが、初期投資のコストが高い点が課題となる。
新しいシステムや従業員のトレーニングに多額の費用がかかるため、短期的に負担が大きくなる。また、既存システムとの統合の難しさも課題であり、システムが複雑であるほど統合に時間とコストがかかる。実際、初期の見積もりと比較してコストが大幅に拡大した事例や、企業の合併時にシステム統合に失敗したケースなどが存在する。
リスクに対処する方法:段階的な導入
これらのリスクに対しては、段階的な導入が有効だ。
特定の部門から導入を始め、効果を確認しながら展開することで、初期コストを抑えることができる。また、既存システムとの統合には、専門家を活用し、計画的に進めることがリスク軽減の鍵となる。
DX導入における課題とリスク②:社内文化の変革の難しさ
「社内文化の変革の難しさ」は、DXを推進する企業が直面する課題の一つである。
DXの成功には、単に新しい技術を導入するだけでなく、企業文化や従業員のマインドセットを変える必要がある。しかし、この文化変革のプロセスは多くの企業で難航している。特に、従来のやり方に慣れた従業員が変革に対して抵抗を示すことが、DX推進の障害となるケースが少なくない。
このリスクに対処する方法:社内文化の変革の必要性
DXの成功には、従業員が新しい技術の活用を受け入れ、業務の進め方や考え方を変えることが重要である。
例えば、製造業で新しい生産管理システムを導入した企業では、従業員が従来のやり方にこだわり、システムの活用が不十分だったため、期待された成果を上げることができなかった。これにより、技術導入と並行して、従業員の意識改革が必要であることが明らかになった。
社内文化の変革を進めるためには、DXの意義を従業員にしっかりと伝え、理解を深めることが不可欠である。トップマネジメントのリーダーシップと、段階的な教育・トレーニングを通じて、従業員が新しい技術を使いこなし、変革を受け入れるように促すことが求められる。
失敗を避けるための最初の一歩
多くの企業がDXに失敗する原因として、社内体制の不備やデジタル技術に対する理解不足が挙げられる。特に、導入初期の戦略ミスや適切な人材配置がないまま進めることは、プロジェクトが失敗する大きな要因となる。
ビジョンの共有
DX化の最初の一歩として、企業全体での明確なビジョン共有が求められる。経営層から従業員まで、DXの目的や目標を共有することで、部門ごとのズレや戦略ミスを防ぎ、一貫した方針で進めることが可能になる。これにより、技術導入の効果が最大限に発揮される土壌が整う。
段階的な導入
DXをいきなり全社、全部署で進めた場合、社員の反発や士気の低下、作業手順の混乱などリスクが大きい。まずは特定の部署で導入し、その成功を確認しながら全社的に展開することで、柔軟に計画を修正し、失敗のリスクを最小限に抑えることができる。
中小企業におけるDX化の推進手法
中小企業のDXの取り組みは、DX人材不足や資金不足、ノウハウ不足などの課題を背景に遅れている。中小企業のDXの現状と課題、政府の支援策、外部人材の活用法などについて以下に記載した。
中小企業特有のDX課題と解決策
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が出した「DX白書2023」によると、中小企業の6割DXに取り組んでいないという調査結果が出ている。特に100人以下の企業では3割強がDXに取り組む予定がない、2割弱がDXに取り組むかわからないと回答しており、遅れが目立っている。中小企業のDXの取り組みが遅れている理由として、①人材不足、②ノウハウ不足、③資金不足、④認知度不足、⑤現状維持を優先する風土などが挙げられている。これはDXを妨げる課題である。
中小企業がDXを成功させるためには、これらの課題を補うための支援策を活用することが重要である。具体的には以下の方法が考えられる。
政府の支援制度の活用
政府は中小企業向けにDX推進を支援するさまざまな施策を提供している。たとえば、DX補助金やIT導入補助金は、企業がデジタルツールやシステムを導入する際の費用を補助するものであり、これを活用することで初期投資の負担を軽減できる。また、専門家派遣制度を利用することで、DXに関する専門家のアドバイスを受けることができ、人材不足の解消にもつながる。
外部リソースの活用
人材不足を補うためには、外部のITベンダーやコンサルタントを活用する方法がある。クラウドサービスや業務自動化ツールの導入により、内部リソースを効率的に使うことができる。
これらの支援策を活用することで、効率よくDXを進めることができる。
中小企業におけるDX推進の課題や解決策はここに記載している以外にも多岐にわたる。政府の支援制度や外部リソースの活用に加え、社内の体制整備や既存システムの確認といった段階的な導入を行いつつ、限られたリソースを最大限に活用しながらDXを進めることが求められる。
自社の状況を加味した上でDXの推進を行い、企業の競争力を高め、持続可能な成長へとつなげる意識が必要であると言える。
DXを実現するための人材戦略
AIやIoTを始めとするデジタル技術の進歩は、企業のビジネスモデルそのものを変革し、自動車産業を始めとする多くの産業で産業構造そのものが転換しつつある。単に企業がデジタル技術を導入するだけではなく、DX企業へと変革していくことが必要不可欠だ。
そのためデジタル技術の利活用できる人材の育成や、DX企業への転換を実現するDX推進チームの構築、強いリーダーシップによるDXの促進が欠かせない。
デジタルスキルの育成方法
デジタルスキルの育成は、企業がDXを成功させるために極めて重要である。特に技術革新のスピードが加速する現代において、従業員にデジタルスキルを身につけさせ、競争力を高めることは必須の課題だ。
まず、企業は従業員の現在のスキルセットを把握し、どの分野でスキルが不足しているかを明確にする必要がある。これを基に、段階的な研修カリキュラムを設計し、従業員が自社に必要なスキルを効率的に習得できるようにすることが必要だ。
例えばトヨタ車体株式会社は、全社員を3つの階層に分けつつ、それぞれの階層に応じたデジタル人材の育成を行なっている。階層については、組織全体のデジタル変革を担う「デジタル専門層」、業務や職場のデジタル改善を行う「有識者層」、変革の効果拡大を担う「市民層」の3つに分けている。「市民層」には車の製造現場で働く工員が含まれている。それぞれの階層に対して以下のスキルセットを求めている。
https://ufb.benesse.co.jp/case/toyota-body.html
- 「デジタル専門層」: アプリ開発やデータ・AIの活用、デジタル企画の推進
- 「有識者層」: はMicrosoft 365他の各種ツールの応用学習
- 「市民層」: デジタルリテラシーや各種デジタルツールの学習
同社は社員がDX研修を受けられるようにUdemy Businessを導入し、希望する社員は無料で受講することができる。受講促進を進めるためUdemy Business活用促進をするインフルエンサーを任命し、楽しく学ぶため「ユーザー会」を置いた。
受講者は当初、200人と少なかったが、Udemy Business活用促進をするインフルエンサーを活用することで受講者は2,500人に拡大した。
DX推進チームの構築と運営
DXは企業風土の変革、ビジネスモデルの再構築が伴うため、経営トップを起点にDXを進めることが望ましい。そのため経営陣の直属の下、全社的にDXを進めるDX推進チームを設置する必要がある。
DX推進チームは、専任の役員1名(CDC、Chief Digital Officer)と推進メンバーで構成し、事業体制とは別に設置する。事業体制と兼任した場合、目先の業務を優先してしまうため、専任にする必要がある。
DXメンバーに要求されるスキルは、社内の人脈と業務知識が必要不可欠となるため、4~5年程度の業務経験とデジタル知識が必要となる。
DX推進チームの業務は、DX戦略・ビジョンの立案と社員全体への周知、現場や社員との調整や意見の収集、デジタル技術の導入と業務改善、データ・ドリブン経営の導入など多岐にわたる。
DXの導入では、業務フローの見直しや配置転換、ビジネスモデルの変革、リスキリングが生じるため、現場の社員からの反発を招くこともある。そうした際の意見調整も重要な仕事である。
データドリブン経営、すなわちデータを活用した意思決定支援も重要な仕事である。
経営の意思決定レベルにおける売上や利益などのKPI(重要業績評価指標)の策定、データ分析の導入と、データ分析に基づく意思決定の支援が必要となる。
DX推進チームを設置することでDXに成功した企業の実例として、Nikeが挙げられる。
Nikeは、経営部門直下の専任のDX推進チームを結成し、顧客エンゲージメントの向上と業務効率の向上を図り、トリプルダブル戦略を打ち出した。トリプルダブル戦略とは以下の通りである。
- イノベーション:製品開発期間を従来の半分に短縮
- スピード:商品の製造から店舗に配送するまでの期間の短縮
- ダイレクト:顧客とのつながりの倍増
多くの企業の場合、ECの専属チームを作り促進することが多かったが、既存の販売部門、製造部門などとの融合が難しいという問題があった。特にEC部門の管轄外のサプライチェーンの見直し、製品開発期間の見直しに着手することが困難である。そこでNikeは、研究開発、製造、販売、マーケティング部門とは独立して、DX推進チームを設置することで、組織の変革と企業業績の向上を達成した。
DXリーダーシップの重要性
DXは単にデジタル技術の導入、業務フローの見直しだけに留まらず、会社の組織風土、事業モデル自体の変革、事業部門の再構築が求められるため、DXの成功には企業トップの強力なリーダーシップが重要だ。
業務の見直し、配置転換、事業部門の再構築、社員のリスキリングも求められてくるため、事業部門や現場の社員の反発も予想される。
組織のトップがトップダウンでDX戦略、ビジョンを提示して、各部門が一丸となってDXに向けて動ける体制を作ることが必要不可欠となる。
例えばAdobeは、CEOのジャンタヌ・ナラヤン氏のリーダーシップの下、パッケージソフトウェアをクラウドベースのサブスクリプションモデルに移行し、2013年にパッケージソフトの販売を終了した。
その結果、Adobeの売上高は、2013年の約40.5億ドルから約128.7億ドルと約3倍に拡大した。
パッケージソフトの販売の終了という決断は、ビジネスモデル自体を変革するため、ナラヤン氏の強いリーダーシップの下で可能になった。
データ活用によるビジネスモデルの革新
現代のビジネス環境において、データは企業の成長と競争力強化の鍵となっている。特に、デジタル技術の進展に伴い、膨大なデータを収集・分析し、価値を創出する能力が企業の未来を左右している。しかし、単にデータを保有するだけでは不十分である。真の変革を実現するためには、データをいかにビジネスモデルに組み込み、イノベーションを推進するかが重要である。
ここではデータの利活用がいかに企業の業務プロセス、ビジネスモデルを変革しているのか、データ利活用に向けてどのよう施策が必要なのかを論じる。
ビッグデータとAIによるビジネス変革
ビッグデータとAIの活用は、企業が革新的なビジネスモデルを構築し、競争優位性を確立するための強力な手段である。膨大なデータの分析とAIの機械学習によるパターン認識により、企業は市場の変動や消費者の行動を精緻に予測し、迅速な意思決定を可能としている。
例えば、Amazonは、顧客の購買データを徹底的に活用することで、個々の顧客にパーソナライズされた商品レコメンデーションを提供している。これにより、顧客体験を向上させ、リピート購入を促進することに成功している。また、サプライチェーン管理においても、AIを使って需要予測を行い、効率的な在庫管理を実現している。この結果、Anazonは在庫コストの削減と販売機会の最大化を両立し、他社に対する競争優位性を築いている
またアディダスは、AIとビッグデータを活用して商品開発のサイクルを劇的に短縮している。顧客のフィードバックや市場トレンドをリアルタイムで分析し、迅速に新しいデザインや製品を開発している。これにより、消費者のニーズに素早く対応できるだけでなく、在庫リスクを低減し、適切なタイミングでの市場投入を可能にしている。
これらの事例から分かる通り、ビッグデータとAIは企業の業務プロセスとビジネスモデルを革新し、企業の成長力を高めることが期待されている。
データ活用成功事例とビジネスモデルの進化
企業が蓄積したデータを活用することにより、新たなビジネスモデルの創出が可能となり、従来の運営方法を根本から変革することができる。データに基づく意思決定は、効率性を高め、競争力を強化し、企業の成長を加速させる重要な要素である。
例えばエアビーアンドビー(Airbnb)は、ビッグデータとAIを活用し、宿泊施設の価格設定や予約の最適化においてビジネスモデルを進化させることに成功した。同社は、地域の宿泊需要やイベントデータ、季節データなどを収集・分析し、それに基づいてホストが適切な価格設定を行えるようなツールを提供している。このデータ活用により、Airbnbは伝統的なホテル業と異なるダイナミックプライシングのビジネスモデルを確立し、各地域やタイミングに応じた収益の最大化を実現している。また、ホストやゲストの満足度を向上させるため、口コミや滞在データを基にしたマッチング精度の向上も実現し、顧客体験を重視したモデルへと進化している。
このように、データを活用したビジネスモデルの革新は、企業に新たな成長機会を提供するものである。特に自社のデータ資産の戦略的な活用は、今後の競争優位性を左右するファクターになるだろう。
実施施策によるデータ利活用
企業はデータの蓄積、収集・分析して、業務プロセスやサービスの改善、ビジネスモデルの見直しを進めることが必要不可欠となっている。では、データ利活用に向けてどのような実施施策が必要になるだろうか。
まず、データの収集には、IoT技術やセンサーの導入が有効である。例えば製造業では、生産設備にセンサーを取り付けることで稼働データをリアルタイムで収集し、生産ラインの最適化や故障予測に役立てている。このような収集施策により、データの精度と収集速度が向上し、実際の業務プロセスに即した迅速な意思決定が可能になる。
またデータの分析には、AIや機械学習モデルの活用が必要不可欠である。小売業界では、顧客の購買データを基にAIが顧客の行動パターンを分析し、パーソナライズされた商品提案やマーケティング活動が行われている。こうした分析施策は、ターゲット顧客の精緻な特定や売上の最大化に繋がり、ビジネスの成長を後押しする。また鉄道や航空機などの交通インフラでは、IoTデバイスが収集したデータを基にAIが異常検知や故障予知を行うことで、事故を未然に防いでいる。
最後に、データの応用に関する施策として、データに基づいた経営戦略の立案と意思決定が挙げられる。金融業界では、AIによる信用リスク分析を活用し、従来の信用判断基準を超えた精度でのリスク管理が実現している。
データ活用は、DX推進において非常に重要な要素であり、適切な施策を通じて、収集・分析・応用を一貫して行うことで、企業の成長を加速させることが可能である。企業はデータを戦略的に利活用することにより、変化する市場環境に迅速に対応し、持続的な競争優位性を築くことができる。
成功するDXのステップ
DXは企業の競争力を高め、ビジネスモデルを革新する手段となるものの、導入には一定のリスクが伴う。例えば、組織部門同士の協力不足、社員の反発、業務フローと乖離した最新技術の導入といったことが挙げられる。
DXの成功には以下の点が重要である。
段階的な導入計画とリソースの最適配分
DXの成功は、単なる技術導入にとどまらず、企業文化や業務プロセス全体にわたる変革を伴うため、段階的に進めていくことが重要である。
これにより、組織の能力やリソースを最適に活用し、長期的かつ持続可能な変革を実現することが可能だ。
まず、DX化の段階的な導入として、スモールステップから開始することが望ましいとされる。
いきなり全社的にDXを展開するのではなく、特定の部門、一部の業務フローでパイロットプロジェクトとしてDXを開始し、成果を踏まえて徐々に範囲を広げていくことが必要だ。
例えばコープさっぽろは2020年1月、株式会社sinopsの需要予測・自動発注サービスを試験的にまず3店舗で導入した。
同社の需要予測・自動発注サービスは、需要予測が難しいとされる惣菜や日用品の分野で強みがある。
コープさっぽろでは、店舗や職員、曜日ごとに発注量にばらつきがあり、平準化する必要があった。
そして最終的には、誰でも同じオペレーションで、担当者が一人でも作業をできるようにしたいという目標もあった。3店舗での成功を踏まえて徐々に拡大して、最終的には全社で「sinops-CLOUD」を導入した。
次に、リソースの最適配分が鍵となる。各段階において必要とされるリソースを明確にし、人材や技術、予算を適切に割り振ることで、無駄を削減し、効率的な運用を図ることができる。また、進捗状況を評価し、必要に応じてリソース配分を再調整することで、変革を成功に導くための柔軟性を持つことが重要だ。
社内でのDX推進体制の整備
DXを推進するためには、専任のDX推進チームの設立とリーダーシップの強化が不可欠だ。
DX推進チチームは、技術的知識とビジネスプロセスの理解を持つ人材で構成され、DX戦略の策定、実行、進捗管理を担う。
この体制により、組織全体がDXを推進するための明確な方向性を持ち、プロジェクトの進行が加速する。
また、強力なリーダーシップはDXの推進を円滑にするために重要である。
経営層や部門リーダーがDXの重要性を明確に示し、従業員全体にその意義を伝えることで、組織全体の協力を得やすくなる。
さらに、各部署間の連携も欠かせない。DXは全社的な取り組みであり、部門を超えた協力体制が成功の鍵となる。部門間での情報共有やコラボレーションツールの活用により、スムーズな業務プロセスとDX推進が実現できる。
DXの費用対効果を分析する
DXの費用対効果の検証は、DXを進める上で重要な課題である。しかし、それに見合う投資効果があるかを確認するためには、費用対効果(ROI: Return on Investment)を正確に分析することが必要である。DXの費用対効果は、初期投資が高さや長期間の費用対効果の測定、非定量的なメリットなど分かりづらいという声も聞く。
DXにかかる費用には、以下の要素が含まれる。
- テクノロジーの導入コスト:
- 新しいソフトウェアやハードウェア、クラウドサービスの利用料、ライセンス費用などが該当する。
- 運用・保守・メンテナンスのコスト:
- 技術の選定や従業員のトレーニング、サポートに必要なコストが含まれる。
- 外部コンサルティング・スタッフの費用:
- 専門知識を持つ外部コンサルタントやエンジニアを雇用するための費用が該当する。
これらのコストを踏まえて、以下の観点から費用対効果を算出するのが望ましい。
DXの推進で得たいゴールの策定
DXの推進で得られるゴールを明文化することが必要である。数字を用いて具体的に設定することが重要だ。
- 開発期間の50%削減
- ウェブページリニューアル後のアクセス数を1年間で2倍にする
- 市場シェアを5年で10%向上する
DXのゴールを数字で具体化することによって、どの程度予算を投資するべきか、何を達成したいかを逆算しやすくなる。
費用対効果(ROI)の計算
DXの費用対効果を計算する際には、主に以下の指標を用いる。
ROI = (利益の増加額 − DX導入費用) / DX導入費用 × 100
利益の増加額には、売上の増加やコスト削減額、業務効率化による生産性向上が含まれる。導入から効果が現れるまでには時間がかかることもあるため、中長期的な視点で評価することが重要である。
費用対効果分析のポイント
- 定量的効果の計測:
- DXの成果を定量化することが難しい場合でも、業務時間の削減や生産性向上などのデータを集め、可視化することが必要である。
- 定性的効果の考慮:
- 新規顧客の獲得やブランド価値の向上など、定量化が難しい効果も見逃してはならない。これらも長期的には大きな価値をもたらす可能性がある。
- 段階的な導入:
- DXを段階的に進めることで、導入したテクノロジーが実際に成果を上げているか確認しながら、次のステップへ進むことが可能となる。
成功事例と失敗事例に学ぶ費用対効果
成功事例と失敗事例の比較費用対効果の分析において、他社事例を参考にすることも有益である。成功事例ではROIが高く、導入コストを早期に回収できるケースが多いが、失敗事例ではシステムの統合がうまくいかず、コストが膨らんだケースが見受けられる。
DXの費用対効果を正確に分析するためには、コストと効果の両面を綿密に測定し、中長期的な視点で評価することが不可欠である。段階的な導入や効果測定のための指標を設定し、実際の業務改善や収益向上にどのように寄与しているかを追跡することで、DX投資の真の価値を最大限に引き出すことができる。
まとめ
DXを成功させるには、単なる技術導入にとどまらず、組織全体がその価値を理解し、協力し合うことが必要となる。効率化と成長を実現するためには、経営層がビジョンを明確にし、全社員が積極的に取り組む環境を整えることが欠かせない。
DXによる変革は一朝一夕に成し遂げられるものではないが、その先にある新たな価値創造こそが、企業の持続的な成長と競争力をもたらす鍵になるだろう。DXに向けて一歩を踏み出すことで、企業はさらに大きな可能性を切り拓くことができると言える。
- 新規事業の事業計画書サンプル
- 新規事業を成功させる22のステップ
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コンサルティングの成功事例 - など
この記事の監修者
株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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