DX事例:製造業や小売業の成功事例に学ぶ取り組みとその効果
公開日:2024.12.26更新日:2024年12月24日
「どうすればDXできるのか」を具体的に理解する方法は、DX事例を学ぶことだ。ただし、「自分の業界と似た事例を勉強して参考にすれば、誰もがDXができるか」というと、そうとも言えない。
成功事例は、何を企業がしたのかだけではなく、なぜ取り組んだのかといった目的や背景、どうなったのかという成果や評価などの視点を持って読み解かなければ、成功要因を見誤るし、再現性がある(参考にできる)事例なのかの判断ができない。
新規事業の開発を専門とする当社も、検討するテーマに関する様々な事例を集める。このとき「何をした?」だけでなく、「なぜ?」や「どうなった?」といった分析を加えることで、初めて「何をするべきなのか」を検討できるようになる。
この記事では、DX化に成功した企業の事例を紹介し、各企業がどのようにして競争優位を確保し、ビジネスにおける効果を上げたのかを解説する。
また、業界別のDX推進戦略、企業が直面した課題とその解決策についても詳述する。
DXの導入に必要な組織体制や、デジタル技術の選定基準、導入プロセスもカバーし、DX化を検討している企業にとっての具体的なガイドラインを提供する。
DX事例の重要性と効果
企業内で言われるDXとは、デジタルを活用して企業や業界を変革する「新しい取り組み」の総称だ。
業務ひとつをデジタル適用して最適化するだけでなく、企業が行う事業活動まで含めて、あらゆる活動をデジタル化した全体最適化が最終的な目標に掲げられるケースもある。
平たく言えば、システムやツールを活用することで企業活動をアップデートする試みだと認識して差し支えない。
本項目ではDXを実際に行った企業事例ではどのような効果が生じているかを解説する。
DXのビジネスにおける影響
DXは業務効率の向上や迅速な意思決定を可能にする。
例えば、株式会社フジワラテクノアートは、現状のシェアを維持することに注力し社内技術の陳腐化・属人化が起こることに対する危機感から「開発ビジョン2050」をトップダウンで作成。
基幹システムの刷新により製造プロセスを可視化し、工数やミスを削減した。
https://journal.meti.go.jp/p/31474/
デジタル技術を活用することで、業務効率の向上や意思決定のスピードアップが可能になるし、市場環境の変化に迅速に対応できるようになる。
企業にとってのDXの効果
しかし、DXは単なる技術導入に留まらない。コスト削減や生産性向上、新たなビジネスモデルの創出など、企業全体に変革をもたらす。
例えば、浜松倉庫株式会社は基幹システムの刷新により、生産性が30%向上し、顧客への迅速な対応も実現している。
https://www.hamamatsu-soko.co.jp/archives/4302
競争優位を確保するためのDXの重要性
いずれにせよ、競争力を維持し強化するために、DXは不可欠である。市場の変化や競合の動向に迅速に対応し、デジタル技術を活用して業務改善と効率化を図ることが、現代のビジネスにおいて求められている。
変化の予測が立てにくい市場の変化や競合他社の動向に対応するためには、DXが必要不可欠であり、デジタル技術を活用した迅速な意思決定と業務改善が競争力強化につながる。
成功企業のDX推進戦略
こうした概念的な理解を踏まえて、DX事例を見ていくと成功事例には共通するポイントがあることがわかる。
共通点1:DXを成功させるためのリーダーシップの重要性
DX成功には、経営層の強いリーダーシップが必要だ。経営トップが自ら積極的に関与し、組織全体にDXのビジョンを浸透させることで、初めてDXの効果が最大化される。
例えば、Adobe社はこれまでパッケージで展開していたソフトを、すべてクラウドによるサブスクリプションモデルへ切り替える判断をトップダウンで実行している。
https://www.businessinsider.jp/post-189531?utm_source=chatgpt.com
共通点2:DX推進におけるデータ活用戦略
また、データの収集と分析を戦略的に行うことが、DX成功のカギである。
例えば、今野製作所は「プロセス参照モデル」を活用し、業務プロセスを最適化することで業績向上を実現した。
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000312.pdf
この2社や前項で共有した株式会社フジワラテクノアートの事例でも共通しているのは「社内上層部から停滞への危機感や変化への積極性を持ち、推進すること」を意識し、全社単位でのDX推進を実施したことと言える。
社内の経営陣の一部会のみ、現場の一組織や部署のみのプロジェクトにまとまってしまわないような意識が重要であると言える。
製造業におけるデジタル化の革新
日本のGDPの約2割を占めると言われる製造業は、特にDX事例が豊富だ。
製造業においてDXが求められる理由は、多様化する市場ニーズへの対応力を高めるためである。特に、製品のライフサイクルが短縮し、カスタマイズの要望が増加する現代において、製造プロセスの効率化と迅速な対応が競争力を左右する。
また、国内外の競争が激化する中で、生産性向上やコスト削減を実現するためには、従来の手作業や属人的な工程から脱却し、デジタル技術を活用した革新的な仕組みが不可欠である。
さらに、労働力不足やベテラン技術者の引退によるノウハウの断絶といった課題を克服するためにも、データやAIを活用した知識の形式化が重要視されている。
製造業のDX事例:スマートファクトリーの実現
製造業では、スマートファクトリーの実現がDXの中心的な取り組みである。スマートファクトリーとは、IoTやAIを活用して工場全体をデジタル化し、リアルタイムでの生産管理や効率化を図る工場のことだ。
生産コストの削減、品質管理の向上、労働力不足の解消などが実現できる。
例えば、ヤマハ発動機株式会社は、工場内でのIoTプラットフォーム導入により、リアルタイムでの生産管理を可能にし、生産性向上に成功した。
同社は、最新デジタル技術およびデータのさらなる戦略的活用を図るため、
「Yamaha Motor to the NextStage」というDXの取り組みを掲げている。
その推進にはデータ化された各種業務データの分析が必須であり、
既存事業をデータ活用で強化するため、製造データ、製品IoTデータ、顧客データなどの多くのデータ収集と分析を行っている。
https://global.yamaha-motor.com/jp/design_technology/technical/presentation/pdf/browse/57gs07.pdf
製造業のDX事例:デジタルツインの活用
また、デジタルツインも大きなキーワードのひとつだ。
デジタルツインは、物理的なプロセスや製品をデジタル上で再現し、シミュレーションを行う技術であり、予防保守や生産効率の改善に大きな効果を発揮する。
例えば、ダイキン工業はデジタルツインの機能を備えた生産管理システムを開発し、大阪府の堺製作所臨海工場に導入した。これにより、設備の故障を事前に予知する仕組みを構築して、設備を停止させずにメンテナンスできる環境を構築している。
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2312/15/news008.html
製造業DX事例: AI活用事例
AI技術は製造業においても広く活用されており、生産性向上や品質管理の向上に大きく寄与している。
例えば、トヨタ自動車はAI画像検査システムWiseImagingを導入することで、目視に頼る検査工程の自動化に成功している。これまで2交代勤務で4人おいていた人的リソースを2人に削減できたという。
https://vrr.cec-ltd.co.jp/case/wiseimaging_toyota/
小売業でのDX戦略と実践
また、生活に身近な小売業界もDXが進んでいる業界だ。その背景にあるのはエンドユーザーの購買プロセスの変化や小売業界の人材不足などに起因する。
小売業DX事例:OMO戦略
OMO戦略とは、Online Merges with Offlineの略称で、オンラインとオフラインのデータを統合することだ。
店舗で見た商品をECで安く購入するショールーミングや、反対にWeb上で情報を調べた後に、送料削減やすぐ手に入れるために実店舗で購入するウェブルーミングなど、消費者の購買プロセスはウェブと実店舗の往復が発生している。こうしたオンラインとオフラインのデータを統合することで、より最適なマーケティングを行う考えがOMOだ。
例えば、ニトリホールディングスの「ニトリアプリ」は、ニトリの実店舗で購入を決めた商品のバーコードを読み込み、配送するか持ち帰るかを選択できる機能を備えている。
https://www.nitori-net.jp/ec/characteristic/App/
小売業DX事例:デジタルマーケティングと顧客体験の向上
デジタルマーケティングは、データとテクノロジーを活用して、顧客の購買行動や興味に基づいたパーソナライズされた体験を提供することだ。
これも、企業の競争力を高める手法である。
オンライン広告、ソーシャルメディアマーケティング、メールキャンペーンなどを通じて、顧客と直接的にコミュニケーションを取り、ターゲットとなる消費者の行動を分析して商品やサービスを最適化する。
顧客体験の向上においては、パーソナライゼーションの徹底と、シームレスなオムニチャネル体験が重要だ。
例えば、UNIQLOの株式会社ファーストリテイリングは、2017年から「有明プロジェクト」と銘打ちDXを推進。生産から販売までの全プロセスを一元管理し、顧客一人ひとりにパーソナライズされたショッピング体験を提供している。
https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20211014_tanaka.pdf
小売業の在庫管理におけるDXの効果
小売業において、在庫管理がDX化されることで、リアルタイムで在庫状況を把握し、需要予測を行うことで無駄な在庫の発生を抑制できる。
例えば、生活協同組合コープさっぽろは、株式会社シノプスの「需要予測型自動発注サービス「sinops-CLOUD」を活用した販促商品等のリードタイムの延長や発注業務DXの実証実験を開始している。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000103807.html
中小企業におけるDX化の実践
ここまで説明してきたようなDXの取り組みは大手企業に限ったものではなく、日本国内の9割を占めると言われる中小企業でも取り組まれている。
中小企業がDXに取り組む際の課題
中小企業のDX取り組みは増加傾向にある。しかし、取り組み内容は「デジタイゼーション」(業務デジタル化)が中心で、「デジタライゼーション」や「本格的なDX」に進展する例は限られている。
2023年の調査によると、DXの実施率は14.6%しかない。
中小企業のDX推進を妨げる主な課題は、以下の3つだ。
- 人材不足
- DXを進めるための専門知識を持つ人材の確保が困難。
- 予算の制約
ITシステム導入や外部人材活用に必要な資金が限られる。
- DX推進の具体策が不明確
- 取り組み方がわからず、初期段階でつまずくケースが多い。
中小企業のDXの進め方の成功ポイント
中小企業のDX推進を成功させているポイントは大きく分けると以下の3つに分類される。
- 経営者がリーダーシップを発揮する
- DX推進には経営者の意識改革が不可欠だ。
- ただし、一方的な押し付けではなく、現場の意識改革と巻き込みも同様に重要。
- 段階的なアプローチでスモールスタートする
- 大規模な変革ではなく、小規模な成功を積み重ねることが持続的な推進につながる。
- 外部リソースを活用する
- 大学、ベンダー、金融機関など外部との連携も効果的だ。
- 特に、中小企業のDXは一社だけで抱える課題ではなく、ステークホルダー全体の課題認識とも合致する。
特に、外部リソースの活用について経済産業省は、中小企業のDX導入を進めるために地方銀行や商工会議所を「支援機関」と位置づけている。25年4月、支援機関が中堅・中小企業のDX実施にどんな支援ができるのかを指針でまとめている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA052DV0V00C24A4000000/
中小企業で成功したDX事例の紹介
株式会社山本金属製作所(大阪府)
機械加工業を営む同社は、デジタルツイン技術を活用し、設備の自動制御や予知保全を可能にする「Learning Factory」を構築した。
- 成功要因:
- 「仮説検証」を重視する企業文化の醸成。
- 現場とデジタル技術を橋渡しする「デジタル推進室」の設置。
- 大学や研究機関との連携を通じた新技術開発。
株式会社リョーワ(福岡県)
同社は油圧メンテナンス事業からAI外観検査事業への事業転換に成功している。
- 成功要因:
- 既存事業の利益を新規事業開発に再投資(売上の10%を新規事業に割り当て)。
- タイの大学との連携によるIT人材確保。
- 経営者自らがマインドセットを変革し、従業員に新たな方向性を浸透させた。
株式会社樋口製作所(岐阜県)
ブリッジエンジニアが製造現場とITをつなぎ、IoT活用やAI技術伝承システムを開発。
- 成功要因:
- 社内プラットフォームを独自開発し、部門間の情報連携を強化。
- 現場の課題解決に重点を置いたアジャイル開発の推進。
- デジタル人材育成のため、製造現場とITを理解する人材を選定。
株式会社西機電装(愛媛県)
生産管理システムの失敗を教訓にkintoneを活用した業務改革を推進。
- 成功要因:
- 現場で使いやすいIoTデバイスを開発し、物理的抵抗を解消。
- 小規模な成功事例を積み重ね、社員の心理的抵抗を取り除いた。
DX推進に必要な組織体制
様々な事例を見てきたが、DXを推進するためには土台問なる組織改革が不可欠になる。
DX推進における組織改革の重要性
DXを進めるためには、組織体制の改革が必要である。
言い換えるとDX施策に特化したデジタル推進チームの構築やDX推進担当者といった部門や専門役職などの任命といった、経営層からのサポートが重要となる。
というのも、DXは個人や各部署が単独で進められる取組ではないからだ。
詳しい説明は「DX推進部門の役割と重要性:企業変革をリードする部門の活動とは?」という記事に詳しく記載している。
DX事例に見る未来展望と市場動向
DXはシステム導入による業務の効率化だけでなく、新たなビジネスモデルの創出を可能にする。
例えば、サービスのデジタル化によるサブスクリプションモデルの導入や、顧客データを活用したパーソナライズドサービスの提供が挙げられる。
つまり、これまで当たり前だと思われていたヒト・モノ・カネ・情報に対する取り扱いが大きく変わることこそ、競争力の獲得といえる。
まとめ
DXは単なる技術の導入ではなく、企業全体を変革する手段である。本記事では、製造業や中小企業の具体的な成功事例を通して、DXのメリットと効果、導入方法について解説した。DXを推進するには、経営層のリーダーシップと明確なビジョン、そしてデジタル技術の戦略的な活用が不可欠である。これからDXを進める企業にとっては、適切な技術選定と従業員の育成を行い、長期的な視点でビジネスモデルを変革していくことが重要である。
企業の競争力を維持し、未来に向けて成長を続けるために、今すぐDX化に取り組むことが求められている。ぜひ本記事を参考に、実際の事例から学び、自社のDX戦略を構築してほしい。
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この記事の監修者
株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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